画面の後景（テレビや写真）から自己主張してくる政治性や社会派脚本の直截さを、ズタズタに寸断する編集とカリカチュアの諧謔で撹乱する感じが楽しい。これが機能しなくなる＝主人公の楽観が打ちのめされるのはニューシネマらしい強烈な現実認知だが、真摯すぎていささか平板な気も。スティーヴィー・ワンダーの『心の詩』のアートワークみたいな陰影のつけ方には痺れる。サントラもファンキーでソウルフルで最高だけど、当初予定していたらしいニール・ヤングのほうが異物感が生まれておもしろそう。

『ラブひな』っぽいなーと思っていたけれど帰ってから読み返したら3巻に今作と同じエピソードがあって笑った。冒頭からの円環構造といい、切り刻んだ編集がとても心地いい。ベッドシーンで挿入されまくる絢爛なイメージの数々でこの監督が『ハロルドとモード』を撮ったことを思い出す。普通は一作目って「のちの片鱗を感じさせている、、」ぐらいだと思うけれど今作のハルアシュビーはマジで全力投球。『さらば冬のかもめ』の諦念を往復ビンタしてくるようなエネルギーを感じる。59歳の若さで撮影途中で死んだことといい、時代と心中した作家感が非常に強い。『夜の大捜査線』でのアカデミー編集賞受賞といい、あの独特の切り詰められた時間感覚とそこから生じる緩慢さ（本作ではパーティ、家族団欒シークエンスなど）がじっさい面白いしクセになるのだけれど、ハルアシュビー特有の微妙にズレた噛み合わない詩的な会話とその最中の切り返しに挟み込まれる異物たち（銃口、果物）にも今作では愛情を感じた。篠崎誠の前の席で鑑賞。10分しか並んでないけど熱すぎて溶けるかと思った。アテネの地下（？）のサンドイッチ、仏検受けた時に食べて美味しかった記憶がある。

まずはゴードン・ウィリスの撮影が素晴らしい。初期から才能溢れてる。黒人問題を扱いながらボー・ブリッジスの上流社会の歪さもイイ。ここがハル・アシュビーの肝なんだと思う。どうしようもないおぼっちゃまだったけれど、ボー・ブリッジスみたいな人間は自分でもあるわけで、死ぬまでグラつきながら生きるのです。