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ア・ホーマンスのdaiyuukiのレビュー・感想・評価

ア・ホーマンス(1986年製作の映画)
4.7
新宿、歌舞伎町では大島組と旭会という二つの組織が対立していた。大島組の若手のホープ、山崎(石橋凌)はシャブを捌くシマを失い、資金源はデート喫茶「ヴェルサイユ」だけとなり、イライラした毎日を送っている。
そんな緊迫感に包まれた町に、沖縄ナンバーのバイクに乗った男(松田優作)がフラリと現れた。
山崎はこの男を、関西から流れてきた鉄砲玉か刑事だと思い、若い者にアタリをつけさせた。
しかし、男は圧倒的なパワーを見せ、彼に興味を持った山崎は「ヴェルサイユ」に置いてみることにした。男は淡々と働き、店のモメ事も一瞬で処理してしまう。男は過去の気億を失っており、山崎は彼を“風”と呼んだ。
そして、店の女、ルージュ(平沢智子)は自分の部屋に風を招くと、関係を結ぶ。山崎はルージュと寝たのかと風に問いつめると、“ハイ”と答えるだけで、彼には何の束縛もないようだ。
ある日、占い師の赤木(阿木燿子)は風を見かけ、アッと驚いた。赤木は風の過去を知っているのだ。彼はベトナム戦争に関わり、重傷を負っていた。
その頃、大島組組長が旭会に射殺された。山崎は藤井に命令され、横浜の黒井組と、シャブと拳銃の取引を行なう。一緒について来た風と山崎の前に、取引を聞きつけた数百人の暴走族が現れるが、風は彼らをアッという間に片づけた。
しかし、山崎の兄貴分の藤井(ボール牧)は旭会の副会長の命と引き替えに話をつけていた。
藤井の計算高さに山崎は暴走する。藤井は山崎を消すように配下の者を送り出し、山崎の女、千加(手塚理美)は藤井にレイプされる。
その動きを喚ぎつけた風は藤井たちを殺した。翌朝、千加の経営する花屋の前に山崎を狙う男たちが張っていた。彼らは山崎が現れるのを待っていたのだ。
案の定、山崎がやって来ると、男たちが発砲した。そこへ風が現れると、男たちを次々と片づける。一人が風の胸をえぐると、そこには冷たい機械が動いていた。
風はレプリカントだった。射たれて倒れている山崎に駆け寄る千加。
風は、千加に山崎は生きていると告げると、そこから去っていった。
狩撫麻礼原作の漫画を、松田優作が監督主演で映画化したハードボイルド映画。
この映画の主軸になっているのは、松田優作演じる記憶を無くし自由に放浪している「風」さんと石橋凌演じる仁義に篤い男・山崎の違っているような似た者同士の男の友情。
記憶を無くし自由に放浪して生きているようでどこか拠り所を探している「風」さんと仁義や組織に縛られ心のままに生きることを望んでいる山崎は、お互いにないものを相手に見い出し心を通わせるけど、心を許している者には優しく仁義に篤い共通点がある。
「風」さんと山崎が心を通わせる過程を、拳銃の取引に向かう山崎に「風」さんが山崎を守るために同行して取引の帰りに山崎たちに絡む暴走族を撃退したり、山崎と共に警察に事情聴取された「風」さんが山崎を守るために黙秘を通し、山崎を殺すように命令する藤井に「風」さんが警告するなどの中で丁寧に描かれている。
アクションの描き方も、突発的に起こったり、アクションの過程を省略したり、主観映像を取り入れたサスペンスフルな演出は、北野武のバイオレンス映画を先取りした新しさがある。
ある決意をした山崎が千加と食事を共にしている時に、千加の大事さに改めて気づくシーンなどの名シーン、ボール牧の不気味な演技も、忘れ難い。
ラストに流れるA.R.Bの「AFTER'45」が、男の美学を強調する傑作ハードボイルド映画です。
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