櫻イミト

口紅殺人事件の櫻イミトのレビュー・感想・評価

口紅殺人事件(1956年製作の映画)
3.0
ラング監督がハリウッドで手掛けた最後から二番目の作品。原題は「WHILE THE CITY SLEEPS(街が眠っている間に)」。

アパートの殺人現場には犯人が口紅で書いたメッセージが残されていた。大マスコミであるカイン通信社の新社長は、この事件に関して手柄を立てたものを専務に昇進させると宣言。社員たちの競走が始まる。。。

邦題から連想するようなノワールものではなく新聞社内の出世競争ドラマだった。俳優陣が豪華で決してつまらないわけではないが、特に印象に残るシーンも見つからなかった。これまで観てきたラング監督作品の中で最も地味に感じた一本だった。

ニュースキャスターの主人公(ダナ・アンドリュース)は殺人犯を挑発しおびき寄せるために自身の恋人を囮として使う男で、あまり好感が持てなかった。ラング監督にとって本作のテーマは、アメリカ資本主義社会に対する皮肉だったのかもしれない。

前作「ムーンフリート」(1955)で興行面・批評面ともに大不振に終わったラング監督は、ダナ・アンドリュース主演で本作と「条理ある疑いの彼方に」(1956)の二本を撮ってハリウッドを去る。

ジャック・リヴェットによるインタビューの際にラング監督はこの時期の映画を”金を必要としていたから撮った”と仄めかしている。本作のことを監督は”気に入っている”と語っているが、その真意は現時点では推し量れない。
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