スギノイチ

乾いた花のスギノイチのレビュー・感想・評価

乾いた花(1964年製作の映画)
3.5
主人公(池部良)は出所間もないヤクザだが、シャバにはイマイチ馴染めない。
生きてるんだか死んでるんだかわからない表情でシャバを彷徨う『鬼火』みたいな男だ。
やがてファムファタール・加賀まりこと出会い、破滅的な享楽に浸りながら繫がっていく。

実録はおろか、任侠映画すらまだブームになってない頃の作品なので、ヒロイックな任侠道などは描かれない。
親分である宮口精二や東野英治郎は義理も人情も無い冷血漢だし、そもそも当の池部良自体が任侠道などどうでもよさげである。
ヒロインの加賀まり子も、詰めた小指を「なにこれ」、殴り込みを「つまらないこと」と言ったり、とことん任侠の世界に茶々を入れる。
この2人、わざわざ金や命をゴミのように扱う行為を繰り返しては生命を実感し、繋がりを深めている。
しかも、隙あらばいかにも松竹ヌーベルバーグ的な意味深トークを繰り広げるのだ。
普通なら鼻につきそうなもんだが、モノクロの綺麗な2ショットがあんまりにもキマっているので何も言えない。
背後に飛び交う「アニキ」だの「賭場」だのの任侠映画ワードとはかなりミスマッチだ。

後年の東映実録のような「任侠のアンチテーゼ」としてのアプローチとも違う、もっと絶対的な虚無を抱えた男女を描こうとしたのだろうか。
加賀まり子死亡の知らせを受けた池部良の反応…東映実録を通り越して北野映画まで到達してるかも。
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