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男たちのかいた絵のHKのレビュー・感想・評価

男たちのかいた絵(1996年製作の映画)
3.7
これは思ったよりよくできた作品でちょっと意外でした。
筒井康隆原作の映画化作品に多いチープさがありません。
U-NEXTでみつけましたが画質の劣化が酷かったので、序盤だけ見て止めようと思ったのに結局最後まで観てしまいました。

筒井康隆の短編集「男たちのかいた絵」は全てヤクザが主人公でそれぞれのタイトルは「夜も昼も」「星屑」「素敵なあなた」など全てジャズのスタンダードナンバー。
本作はその中の「二人でお茶を」を映画化したものです。偶然JAZZネタが続いてます。

豊川悦司(当時34歳)が演じる主人公は二重人格のヤクザ。
ひとつの人格は周りから怖れられる短気で凶暴な幹部組員の松夫。
もうひとつの人格は優しくひ弱な下っ端組員でけんかもからっきしダメな杉夫。
この二つの人格が予告なく入れ替わるため、仲間の組員でさえ今はどちらか恐る恐る顔色をうかがいます。

こう書くとコメディとも思われそうですが、これまた意外にもシリアスで原作以上に切ない仕上がりとなっています。
正直言って若きトヨエツの演技力を見直しました。
ちょっとした仕草や目つきだけで人格が切り替わったとわかる演技はたいしたもの。

以前、『八つ墓村』のヘラヘラした金田一耕助役のトヨエツを貶しましたが、なんと本作は同じ年の公開作品。やはり合う役と合わない役があるということでしょうか。

そして本作は神代辰巳の最後の脚本をかつて神代の助監督も務めた伊藤秀裕が監督。
プロデュースには桃井かおりの名前もあり、高橋惠子(画質は悪いのにキレイ)、内藤剛志、永島敏行、白竜らの他に神代へのオマージュなのかちょっとした脇役にも観た顔がチラホラ。筒井康隆も和服の組長役で出てました。

ドライな原作のイメージとウェットな演出が独特な雰囲気を醸し出しており、筒井作品の映画化としては数少ない成功例のひとつと言えるんじゃないでしょうか。
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