Fitzcarraldo

トラ・トラ・トラ!のFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

トラ・トラ・トラ!(1970年製作の映画)
2.5
Gordon W. Prange著の"Tora!Tora!Tora!"と、Ladislas Farago著の"The Broken Seal"の2つを原作にした作品。

そもそも2つの原作をどのように1つの作品として落とし込んでいったのか…おいしいところだけつまんで成立するものなのか?それだけ2つの作品のテーマは似通っていたのか?どちらも未読だから判断できない。

脚本
ラリー・フォレスター
小国英雄
菊島隆三

ノンクレジット脚本
黒澤明
エルモ・ウィリアムズ
ミッチェル・リンドマン

これだけの人が関わっていて、よくひとつにまとまったなぁと不思議である。誰もが我を出していたら、収集つかないであろう。

黒澤明降板については、あれやこれや言われているので、ここには記さないが…もし続投していたとしても、大した違いはないかと思う。

それは当時の関係者が技術顧問として入っているのだから、大きく逸脱することは出来なかっただろうと推察される。

軍事関係に源田實、外交関係に平沢和重、航空関係に園川亀郎、艦隊関係に渡辺安次、造船関係に福井静夫の5人が脚本作成に協力。

脚本を面白くしようとも、それは違う、そんなことはなかった、とか言われてしまいそう。どんな空気感であったか分かり兼ねるのだが…勝手な想像だと、そんな気がする。



よもの海
みなはらからと
思ふ世に
など波風の
たちさわぐらむ


明治天皇『明治天皇御集 昭憲皇太后御集』(1929年)

1944年9月6日、開戦か否かを話し合う御前会議の場で、この明治天皇の和歌を二度も読んだという昭和天皇。

国家の運命を決める最終決定が和歌によって行なわれ、そして何より昭和天皇の真意が会議の出席者にも理解できなかったということがおもしろい。

恥ずかしながら、この歌も知らなかったし、昭和天皇が御前会議で読んだということも私は知らなかった。また映画から学ばせてもらった。

平山周吉の著書『昭和天皇「よもの海」の謎』に、ここらへんは詳しく書かれているようなので、こちらもチェックしたいと思う。


この和歌の件りくらいで、あとは冗長。
何度も同じようなシーンが積み重ねられる。ある情報を米国側がキャッチすると、その情報がたらい回しになる。そればかり見せられてるような気がする。とにかく退屈で長い。ここは倍速で見てもOKな気がする。


マジックアワーの空の下、空母から離陸していく戦闘機が美しい。
トップガンはこのシーンがイメージにあったのか?少し似ている気がする。


日本シークエンスになると途端に三味線のBGMが流れるのが鬱陶しい。サムライ!ハラキリ!の凝り固まったイメージがまだまだ強い時代なんだろうなぁ。これは未だに残ってるというか…日本のテレビでも平気で、同じことやってるけどね。昔ながらの蔵を改装したようなお店とか紹介する時に、必ず三味線のBGM使う。ししおどしなんかあったら、必ずインサートで入れるもんね。こういう安易でアホみたいなことを自分たちも無意識にやってしまってるという…これは治らんね。


ようやく真珠湾攻撃に…
長かった…ここまで何もハイライトがなく、紙の情報が行き来しているだけ。


零戦が大挙してハワイへ。
その時に、ハワイのフライングスクールの飛行機が練習飛行をしている。男性が練習生で先生が女性というのも、さすがアメリカ。進んでる。この時点で男尊女卑の王国である日本は勝てそうな雰囲気ない。

フライングスクールの一機を、不思議そうな顔で見る日本兵。

緊張と緩和がうまいこと働いていて、つい笑ってしまう。


上空で綺麗に隊列組んでるのがカッコイイ。撮影もよく撮れてる。


トラトラトラは暗号名なの?
零戦から送ってたけど…

当時、第一航空艦隊の航空乙参謀だった吉岡忠一によると、ハワイ奇襲攻撃作戦の間だけ使用する通信略語として、小野寛治郎通信参謀と二人で作ったもので、「ト」の次に「ム・ラ・サ・キ」(紫)をつけた「トム」「トラ」「トサ」「トキ」の四つの略語のうちの「トラ」に、たまたま「奇襲成功」の意味が当てはめられただけで、深い意味はなかったという…。

もし奇襲失敗してたら、なにになってたんだろう?トムトムトム?


それにしても米軍側は余りにもマヌケに描かれすぎてないか?目の前を零戦が飛んでるのに、攻撃されるまで敵襲って気づかないのは?さすがにアホすぎるやろ?

超低空飛行する姿はカッコいいなぁ。しかし訓練中、二人の死亡者を出したということは、それだけ危険だということの裏返しだろう。


本作撮影のため、米国製練習機のT-6 テキサンやバルティBT-13を飛行に支障が出ない範囲内で大改造を施し、出来る限り“本物”に似せようと工夫を重ねたスタッフの努力は高く評価され、その作りこみにより、現存する実機を除けば日本海軍機に似ている飛行可能な機体であるため、後に作られた多くの戦争映画や欧米の航空ショーにも動員され、日本軍機役で現在も活躍しているらしい。



日本側の監督のひとりである深作欣二は…

深作欣二
「日本でくらいは当たったんじゃないですか。アメリカではどうだったのかな。同じダリル・F・ザナックが『史上最大の作戦』(62)の東洋版だといって企画したといっても、たかだか真珠湾の話ですし、こちらの日本の騙し討ちだけの問題ですから、話がつまらないですよね。面白くなるわけがない」

深作欣二
「政治なら政治のね、入って行けないところを押さえて、いわゆる“らしさ”、戦争直前の“らしさ”というのは絶対に描かなければいけないはずなのが、全然脚本に設定されてない」

深作欣二
「海軍の山本五十六をめぐる平和主義的神話を黒澤さんは信じていたんですかね。それは神話でも何でもなくて、結局は無責任思想の現れで、あのころの日本の政治家や高級軍人が等し並に持っていた無責任思想の現れであって。やっぱりそうだったと思いますよ」

随分と正直に且つ的を得たことを言うなぁ…。


毎日新聞は…
「前半はやたらシークエンスの積み重ねでだけで、全然盛り上がってこない。後半は一時間余にわたって真珠湾の実録の再現。破壊に次ぐあくなき破壊は確かに大変な見もののスペクタクル大作ではある。しかしそれとても戦争の持つ悲惨さを伝えはしない。まるっきりゲーム化されて、しかも日本のワン・サイドだから、単純な民族感覚からいえば悪い気はしないけれど米人には不愉快な映画だろう。それにしても実録なら当時の日米記録映画を繋ぎ合わせれば済む。再現するなら、こんな飛行機だけに凝って、プラモデルマニアあたりが満足するような、全く無思想の映画では困るのである」

今では考えられないほど毎日新聞の鋭さが際立っている。
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