津軽系こけし

ゼア・ウィル・ビー・ブラッドの津軽系こけしのレビュー・感想・評価

4.9
底無しの強さ、信仰の脆さ


この映画、とても考えたことが多かったので何を書こうか難儀中。

まずなによりも私はこのダニエルというキャラクターに惹かれてしまった。作中の「他人の成功を許せない」といった彼の優越感、劣等感を感じさせる言葉は彼の性格像を投影しこれから起こるであろう悲劇を予感させる。
あーいう人っていくら財を手に入れても満たされないんですよね、しかもたちが悪いのは何か欲しいわけでもないってとこなんですよ、何か欲しいわけでもないのに満たされない、恐ろしいジレンマですよ。

私、タイトルの「There will be blood」の「血」って流血の意味だと思ったんですけど終盤のシーンでこの血が「血脈」もかけてるんじゃないかって思ったんです。
ポールは家族を捨て富を求めたいわば” 今の “ダニエルの写し鏡的存在、対してイーライは家族が全てであった” かつての “ダニエルの投影。だからダニエルがイーライを否定するのは” かつての “自分への罵倒の意味もあったからなのではないかと思いました。
そこに血の繋がっていない息子という要素と弟の存在、彼は作中を通して己の血と戦っていたんじゃないかと… 思い違いかな?

やっぱりこの作品を語る上で神の話は外せないですよね。
そもそも神の存在って皮肉なことに肯定するよりも否定する方が簡単なんですよね。何かの映画だかで月は存在自体が不思議な天体で存在することよりも存在しないことを証明する方が簡単という話を聞いたことがあります、でも実際月は夜になると誰にでも見えるわけですから不思議な話ですよね。
だから私、神っていわば月みたいな存在なのではないかと考えてます(突然の持論)
でもやっぱり神が存在しないことを語る方が簡単であることは変わらない、あのラストは神の存在とそこに浮かぶ人間の業の深さについてたくさん考えさせられますね。

あとパッケージのシーンの炎が燃え上がり、人々が石油に塗れる画は地獄の比喩かな?と思ったんですけど、言われてみれば「地獄の黙示録」のオマージュですね。
私、他の方の感想を読んで気づきました(おい)。みなさんの見識の広さには本当に毎度脱帽です。
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