菩薩

乳房よ永遠なれの菩薩のレビュー・感想・評価

乳房よ永遠なれ(1955年製作の映画)
4.5
不幸せな結婚生活に終止符を打つことで妻であることから解放され乳房を喪失することで母であることからも解放された彼女に残ったのは娘であり女であること。愛ともつかぬ関係性を築く相手との今生の別れであると知りつつも、その背を追えずに流るる涙。死の床にあろうとも紅を引き髪を整え乳房の膨らみまでをも装い男を迎え入れた彼女が最後に欲したのも、髪を洗い美しくこの世を去りゆくこと。かつては想いを寄せた相手が入った湯にその身を浸し、傷付いた身体を友に見せつける一方で、湯に当てられた身を冷ますためにその膝に伏す、女であることの矜持と女同士であるからこその慈しみが同居した素晴らしい場面だと思った。その身体で抱かれるからこそ乳房を失っても決して失われはしなかった女性性と言うものが際立ち、愛すれど残して逝かねばならない子供達に向けられた遺言によって再び母性そのものが立ち上がって来る。大月がもしその死に目に間に合ってしまったら…ちょっと違う映画になってしまうと思うし、間に合わないからこそ女性であるが故に失われた時間がより鮮明となる。フェミニズム、ともまた違う、女性が見つめた生と死と、美しく儚く散った愛と夢。
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