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私を抱いてそしてキスしてのtakのレビュー・感想・評価

私を抱いてそしてキスして(1992年製作の映画)
3.0
エイズへの理解がまだ深まっておらず、厳しい偏見や差別を生んでいた1990年代初め。家田荘子のノンフィクションを、南野陽子自身が東映に企画として持ち込み製作された意欲作。この役の為に減量して挑んだ我らがナンノ(この呼称が通じるのも世代限定)の、並々ならぬ意気込みが伝わってくる。

元交際相手がエイズ検査陽性だったと告げられた主人公圭子。不安になった彼女は検査に行き、自分も陽性だと告げられる。ショックに打ちひしがれそうになる中、たまたま出会って優しい声をかけてくれた男性アキラと関係をもってしまう。しかし事実を告げたらアキラは圭子から去ってしまった。圭子は検査に行った保健所で会ったジャーナリスト美幸に再び声をかけられる。美幸はエイズによる偏見や差別をめぐる記事を書く為に取材をしていた。初めは美幸を拒絶していた圭子だが、次第に彼女に心を許していく。

エイズに対する正しい理解を促すことが、前面に押し出された映画になっている(日本初の厚生省推薦映画)。かつては「野性の証明」「新幹線大爆破」など骨太のサスペンスを撮っていた佐藤純彌監督が、教育映画かと思うくらいに真摯に題材に向き合っている。街頭インタビューを挿入し、一般の人々がエイズをどう理解しているのかを示したり、三浦友和扮する医師がエイズについて説明するシーンも過剰に感情を込めず、むしろ淡々と演じさせる。それだけに、アイドル女優が頑張ってる映画というよりも、残るのはすごく生真面目な映画という印象。説教くささを感じないギリギリの線だけに、今観ると一般的な感動作としては物足りないかも。

フレディ・マーキュリーがエイズで亡くなったのはこの映画が公開される1年前。まだ病気についての知識が世間では浸透していない。いや、今でもそうかもしれない。そんな時期に製作されたことは評価されるべき。日常生活を共にするくらいなら感染しない。頭ではわかっていても圭子が差し出した飲み物を受け取る手が震える場面。職場の健康診断を前に退職を願い出る圭子の辛さ。病気の恐ろしさはもちろんだが、感染者に向けられる視線や差別意識が圭子の精神を痛めつける様子こそが怖い。話題になったベッドシーンは、圭子が誰かにすがりたいという、強く切実な気持ちが伝わる。赤井英和の肩越しに見える、南野陽子の何とも言えない切ない表情が心に残る。
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