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大理石の男のRのレビュー・感想・評価

大理石の男(1977年製作の映画)
4.5
映画学校の女子フィルムメイカーが上司と一緒にものすごい勢いでずんずんずんずんこっちに向かって足速に廊下を歩いてくるショットで幕を開ける。グラグラ揺れるカメラに、この女アグニェシカの怖いくらいの迫力。この狂おしい熱量はいったいなんなんだ。とんでもない映画が始まる予感。彼女は自分の卒業制作作品として、1950年代の英雄的労働者ビルクートのドキュメンタリーを撮ろうとしている。ビルクートは、戦後ポーランドの一大建築工事プロジェクトの立役者的存在として、有名な国民的ヒーローであったが、いつの間にやら姿を消し、消息不明に。リサーチを進めていくと、実は彼は単なる政府のプロパガンダのツールであったことが分かってくる。共産主義の台頭によって組織に利用され、消えていったビルクートの真実を、数人の関係者の証言によって明らかにしていく。展開の仕方は市民ケーンにとてもよく似てるけど、資本主義社会の申し子となって大成功を収めながら、自らの欲望に食い破られていくケーンとは、かなり対照的な人物像となっているのが興味深い。だが、市民ケーンでは文字通り影の存在でしかなかったリサーチャーとはまったく逆で、本作のリサーチャー、アグニェシカは本作の中で、他の誰よりも強烈な存在感を放っている。大胆不敵にシステムに喰ってかかるその勢いは、女豹というよりは猪突猛進の雄牛のよう。まだまだ女性のエンパワーメントが進んでいなかったであろう時代に、こんな怖いもの知らずの女を演出したのはすごいことなのではなかろうか。怖いもの知らずってか、ただただこの人が怖いわ笑 利口で、賢くて、激しさの裏にシャイなユーモアのセンスがあり、表情とかもはや人間としておかしいレベル。あとなんか動きがめちゃくちゃ特徴的。座り方とかねっころび方とかタバコの吸い方とか。ひとつひとつの動きが無茶苦茶気になる。こんな強烈なキャラクターを体現したクリスティナヤンダというこの女優はいったい何者なのか、それが過去にビルクートに何が起こったかに関するミステリーより全然気になる。ビルクートの流れも面白くはあるんやけど。ビルクートの話でとりわけ面白かったのは、彼と10年以上友人であり煉瓦積みのチームメートでもあったビテックとの関係と展開。特に党の上の人間に会いに行くあの奇妙なカフカエスクなシーンはとても印象的だった。そして、その後の法廷シーンと、それと対比的な、ビルクートと妻の関係……さて、さまざまな謎の真相が明らかにされたその後に、共産主義的な圧力がアグニェシカにもかかってくる。ひょっとすると、これは監督アンジェイワイダ自身の経験が基になっているかもしれない。常にドキュメンタリックな劇映画を作り、真実を追い続けたワイダ監督の火花散る情熱のほとばしりを熱いくらいに感じる映画だった。個人的にちょっとだけ気になったのは、音楽がビミョーに内容に合ってないかなー、面白い音楽ではあるのだけどなーていうのと、映像面で少しインパクトに欠けるかなー。記憶に焼きつくような画がないというか。最初のズンズン歩きはすごいけど、それくらいかな。あと、娯楽要素や芸術要素は少ない映画だと思うので、ガチの社会派を見たいタイミングでのみ見るのをオススメしたい。終盤のダディーとのやりとりと、とある人物との出会いは、非常にインパクトのある終わり方ですごく良かった!!! さて、本作、もう一回見たいかと言われるとビミョーなところ。実は以前、一回だけ、見始めたけどすぐに辞めた経験があります。あまりにも雰囲気とテーマがとっつきにくくて笑 けど、最初のウッとくる感じを超えたら、あとは市民ケーンを楽しむように、ガチで集中して頭を使いながら観れば、楽しめるかと思われます。
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