教授

映画女優の教授のレビュー・感想・評価

映画女優(1987年製作の映画)
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デイミアン・チャゼルのような映画。
製作当初が1987年なので、市川崑監督としては、もはやそれなりに「巨匠」としての域に達している時点であるが、正直困惑するような粗削りなつくりになっていて、いわゆる「夢追い人」と接続する「映画史」について妙に青臭い。

正直、あまり良い映画という感じはしない。
とにかく「説明ゼリフ」が多く、今の時代に観ると余計に白々しさを感じる。
森光子、常田富士男、石坂浩二などの演技巧者によっての演技ならそれも気にならないが、残念ながら主演を務める田中絹代役の吉永小百合の演技は拙さの方が目立ってしまう。

まだまだ色々な幻想や伝統が機能している当時の「映画業界」のスター主義が、悪い意味で機能している。
特に、清水宏をモデルにした清光(渡辺徹)や五所平之助をモデルにした五生(中井貴一)とは、さすがに年齢差が明確になってしまい気まずさが勝ってしまう。

画面作り、編集の美しさは毎度の市川崑美学という感じもするのだが、いかんせん「日本映画史」のドキュメント要素とそこに隣接する田中絹代のドラマが噛み合わない。
田中絹代の生涯であったり、それを通した「映画全盛期」の凄みを堪能するにはドラマや演出に厚みがなく、よくある文芸映画になっている。

ただ本作で圧倒的なのは菅原文太が演じる横内の登場。
菅原文太が溝口健二を演じるのとなかなか意外であるが、菅原文太という「イメージ」とは違うインテリジェンスや、虚無性を佇まいだけで表現している。
本作の見どころはこの、菅原文太の繊細な演技と、ラストショットにおける唖然とするほど突き放した唐突な終わり方という感じがする。
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