MitsuhiroTani

ディア・ハンターのMitsuhiroTaniのレビュー・感想・評価

ディア・ハンター(1978年製作の映画)
5.0
政治、宗教、愛する家族を守る為。人は戦う時、明確な目的を持つことで、自らを鼓舞し、あり得ない力を手に入れる。 ところがベトナム戦争は、兵士達に戦う目的がなかった。米国国家には、それが建前だったとしても、共産主義からの解放など色々あったろうが、一介の兵士には目的どころか、理由すら見つからなかった。 そして、戦う意味を見出せない彼らが、故郷や家族を守る為に命を賭して戦うベトナム人と向き合う恐怖とストレス。 故郷に帰れば豊かで穏やかな暮らし、幸せで満ち足りた生活があった者ほど、この強度のストレスを受け止める為に、自ら虚構の強さを築くしかなかったのだろう。 もし、この「強さ」にのみ裏打ちされた振る舞いを「狂気」と呼ぶなら、彼らの行動原理はこの「狂気」によってのみ、理解できる。 本作もまた、ベトナム戦争の直接的な怖さではなく、か弱き人間が「狂気」に壊れゆくことの怖さを物語っている。地獄の黙示録しかり、こうした作品を生み、議論するしか心の再生をはかることができない忌まわしいベトナム戦争。これが戦後復興の伴わない敗戦が生んだ闇なのだろうか。
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