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霧笛のkebuのレビュー・感想・評価

霧笛(1934年製作の映画)
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村田實の貴重な現存作品。メロドラマとハードボイルドが交錯する無声映画末期の傑作。中野英治、志賀暁子の演技は絶品、菅井一郎の白人の扮装も違和感なし。上映後の講義でも触れられたが、撮影の靑嶋順一郎も素晴らしい仕事だった。

今回は二日間の上映、それぞれ違うピアニストが演奏するということで両方参加したが、これが非常に面白い体験だった。初日は気だるさと寂しさをまとったジャジーな演奏で、一音目から劇場の空気が変わる。複雑な心理描写を丁寧に表現しながら全体のバランスも計算し、感情を盛り立てるが決して映画を超えない巧みな音楽。「傑作を観た」という観客の思いは上映後の鳴りやまない拍手にも表れていたが、これはピアニストの良い仕事による部分も大きいだろう。一方、2日目はショスタコーヴィチのジャズ組曲でスタート。ピアニストは細かい場面も気にしてるようだが、軽く薄い音楽が終始続く。物語がその単調な音楽に収れんされ、この作品の魅力である複雑な心理描写が見えなくなったように感じた。上映後の観客の反応も初日とは異なり、いまいちピンと来ない雰囲気に。

付けられた音楽によって傑作が傑作として観客に伝わるか、それとも凡作として伝わってしまうのか。無声映画にとっての音楽の重要性を知る2日間となった。
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