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セコンド/アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身のlamのレビュー・感想・評価

4.0
容姿を丸っきり変えて、人生を一からやり直したいというのは、生きていれば一度や二度思い浮かぶ。ところがこの映画では、そういう「人生のセカンドチャンス」という人生の好転に向けたハートフル・ファンタジーは全く蚊帳の外で、よりブラック・ユーモアに満ちた悲劇的なカラクリがウィルソンを襲う。

容姿端麗でボヘミアン的な生活が用意されたトニー・ウィルソンが、過去のしがらみから放たれ再び人生をやり直す中盤は、異様にスピード感が遅い。どの演習もけっこう巧妙で、中盤あたりは紋切り型のラブロマンス的に見せておいて、後半にかけて想像以上の結末を用意している。

セカンドチャンスをものにしようとする、ウィルソンはなんとか周囲に馴染もうとパーティーを開いたりなんかする。ここら辺から、このコミュニティにどうやら不穏な空気が漂っていることに気付く。グッと面白くなって、良い映画だった。

最近でこの映画を感じさせるものと言えば、『哀れなるものたち』(‘24)あたり。この映画は物語の斬新さ、美術もさることながら広角レンズ、魚眼レンズの撮影技法も際立っていて、覗き穴視点の変質狂的なカメラアングルは、『セコンド』をリファレンスにしたのかもしれない。

『哀れなるものたち』の主人公であるベラ・バクスターが死後、赤子の頭脳を移植されるという形で人生をやり直す一方で、アーサー・ハミルトンは外形を丸っきり変えてトニー・ウィルソンとして、人生をやり直すという両作品とも「もう一つの人生」というテーマが通じているのは偶然なのか、面白い。
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