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青春神話のTSのレビュー・感想・評価

青春神話(1992年製作の映画)
3.8
【何も答えが出ない若者群像劇】81点
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監督:ツァイ・ミンリャン
製作国:台湾
ジャンル:ドラマ
収録時間:106分
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 これは中々最後まで世界観に集中できた作品でした。バブル期の台北を舞台に、落ちこぼれの若者たちの群像劇を描いた作品。何か結論がでるわけでなく、淡々と静かに若者達の行動が映されていくのですが、次何をするのだろうという興味にかられ、中々味わい深い映画であると思いました。ツァイ・ミンリャン監督の作品は初めてで、難解な作品が多いと聞きますが、この作風は結構好きなのでこれから定期的に見れたらと思います。

 出だしから面白そうだなと思わされます。不良少年であるアツーらは手慣れた手捌きで自動販売機のお金を押収していきます。しかし、だからといってそれ以上のことはせず、そこで盗んだ金をゲーセンで使用するというもの。一方、全く住む世界の違うもう1人の主人公シャオカンは、予備校に通いながらも将来の夢が定まっていなく、なんとかして予備校を辞めてその授業料を自分の懐におさめようとする人物です。両者住む世界が違うため、出逢うようで出逢わないのですが、共通点はどちらも落ちこぼれということでしょう。

 まず、このどうしようもない疲弊した若者達の世界観をよくあらわしているのが素晴らしいと思いました。洋画でも若者の群像劇の作品はたくさんありますが、やはりアジア圏となると国は違えど雰囲気は似ているため、我々はある種の生々しさを感じてしまいます。冒頭のゴキブリや、これでもかというくらい逆流する排水溝、壊れていて必ず4階で止まってしまうエレベーターなど、挙げればキリがありません。なんというか、とても良い暮らしとは思えない環境をこうも淡々と映されると、やはりやる気がなくなるといいますか、先に希望すら見出せないことはなんとなく感じ取れます。アツーはある日、兄の女でもあるアクイと出会い、彼女をバイクに乗せて街中を滑走します。その時、シャオカンの父が運転するタクシーともめてしまい、アツーはサイドミラーを割ってしまいます。これを見ていたシャオカンは、彼を目の敵としていくのです。

 シャオカンからすると、自分は予備校生という縛られた立場なのに、好き勝手できるアツーが羨ましかったのだと思われます。ただ、それが怒りに変わり、彼に復讐をしようとします。とは言ってもここがまた落ちこぼれ感満載であり、決してアツー自身に対して何かしようとはしません。小賢しいといえばそれまでですが、このあたりがやはり落ちこぼれている感じがすごいして、リアリティがあり面白かったです。そして、そこからアツーの反撃があるのかと思えばそうでもない。結局のところ何も解決していないのがまた味がありよかったです。

 これ以降、シャオカンを演じたリー・カンションがツァイ・ミンリャン監督の作品によく出てくるそうなので、また見ていきたいと思います。
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