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灰とダイヤモンドのSadAhCowのレビュー・感想・評価

灰とダイヤモンド(1957年製作の映画)
5.0
2023 年 1 本目

”抵抗” 三部作、最後の 1 本。公開当時(1958 年前後)くらいにリアルタイムで見た世代には絶大な人気があったらしく、日本でもマチェクのスタイル(ジャンパー、細身のジーンズ、サングラス)を真似る若者が続出したのだとか。死んでいった戦友たちの魂のように燃えるスピリタス、逆さ十字を挟んで語り合うという不吉なことこの上ない教会、そして最後のゴミ捨て場で燃え尽きてそれこそゴミのように忘れ去られる主人公……。とにかく絵になるシーンが多すぎる。

作中のマチェクの服装はスターリン死後の自由化の時代に西側から輸入されたものなので、実際には終戦直後にあんなおしゃれな格好は誰もしていないのだが、ワイダはマチェクの私服をほぼそのまま採用したらしい。1945 年と 1958 年って、現代からみると大して変わらない時代のように見えるけど、当事者感覚だと違いはすごかったのだろう。何せスターリン死亡、スターリン批判、雪解け、自由化がほぼ 10 年くらいの間に起きたので。

アンジェイェフスキの原作のタイトルはその名もずばり『終戦直後』だったのだが、作中で引用されるノルヴィトの詩に合わせて『灰とダイヤモンド』に改名された。グッジョブな改変だと思う。『終戦直後』じゃ誰も見なかっただろうな……。後に沢田研二、GLAY、ももクロの曲名に採用されたのみならず、同タイトルの BL 作品までできてしまうあたり、『灰とダイヤモンド』のパワーワード感はすさまじい。

アンジェイェフスキ自身は共産主義体制べったりの作家で、原作ではシュチュカが英雄的に描かれている。だからこそ映画化も許可されたのだろうが、いやあまさかこんなに体制批判的な映画ができあがるとはワイダ以外には誰にも分からんかっただろう。暗殺仕事前に野っ原で昼寝していた若者が恋をして、人を殺して生きることの虚しさを悟り、それでも組織の論理にしたがって任務を遂行したが最後はゴミ捨て場で灰のように燃え尽きる。その人生にダイヤモンドが残ったか否かは神のみぞ知る……。
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