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ツリー・オブ・ライフのohassyのレビュー・感想・評価

ツリー・オブ・ライフ(2011年製作の映画)
3.5
パルムドール受賞で、とにかく映像が美しいが難解すぎることで話題となった本作は、ブラッド・ピットとショーン・ペンが時代を経た親子を演じる、テレンス・マリック監督の超自伝的な物語。
中心となる物語はマリック本人を投影する3兄弟の長男・ジャックが、支配的な父親の元で思春期を迎える中、抑圧からの解放を求めて自我と戦う姿を描く。

ブラッド・ピット演じる父親と息子たちの姿は、否応なく自分と重なってしまうし、年齢を重ねるにつれ父親の支配に抵抗を示す長男の、常に何かしでかしそうな、乱暴で時に暴力的な言動や行動には、本当にイヤな気持ちにさせられる。
昨年公開されたDVオヤジ映画「ジュリアン」では、単純に父親の間違った支配欲が恐怖とともに描かれていて、恐怖とともに自己への戒めを考えさせれられたけれど、本作はそこからさらに、そういった父親の存在が子供にどう影響を与えるかまでを描くことで、さらにこちらを抉ってくる。

公開された2011年、監督はすでに67歳。
そんな歳になるまで父親からの影響を強く受け、複雑な思いを抱き続けることになるなんて、家族の呪いというものは本当に恐ろしい。
僕にはそういう感情はほとんどない(と思う)から、両親はそれなりにがんばってくれたんだなと思う一方で、自分が子供たちに呪いをかけることになっていないかは恐怖しかない。

一方で、ジェシカ・チャスティン演じる母親は、父親とは相反した、美しく優しく包み込む存在として描かれる。
セクシーというよりは聖母のような描写だが、白くヒラヒラとした服を纏い、息子にさえもジェンダーを感じさせるような魅力を放つ。
しかしそれもまた、年頃の男の子には時として苛立ちを感じさせ、自分でもコントロールしようがない望まない暴力性を沸き起こしてしまう。
「暴力的にさせないでください」「父に反抗させないでください」「善人にさせてください」と祈るジャックのモノローグは、なかなか神の元には届かない。

本作には明らかに説明不足な部分がある。
繰り返し登場する暗闇の中の煌き。
突如として始まり延々とつづくビッグバンからの生命の進化描写。
次男の死。

ググれば色々な解説がヒットするので観賞後に納得することはできるけれど、映画だけでは論理的に理解できないところは多い。
しかしながら感覚としては何かを理解できた気もする。
最も大切で安らぐべきとされる家族の中で辛い思いをしなくてはならず、次男の死をも招いたと思い込む父親への憎悪を抱えて、大人になったジャックは未だ神に問い続け、逡巡の荒野を彷徨う。
思いは自分や父親からやがて人間の存在意義へと昇華し、ついには生命の誕生にまで遡る。
そして、彼岸で家族は出会い、ようやく分かち合う。
あの彼岸として登場する海岸は、ゲーム「デスストランディング」でいうところの「ビーチ」ですねまさに。

詩のようなモノローグ、「2001年宇宙の旅」のダニエル・トランブルによる幻想的で実在性のある特殊効果、子役としてのタイ・シェリダン(子供たちのやりとりが素晴らしく自然)など見所も多く、何よりその分かり難さで十人十色の印象を作る。
いや、きっと観るタイミングによってすら印象がガラリと変わる。
個人的な物語は、時として普遍的な物語になり得る。
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