あなぐらむ

野良猫ロック マシン・アニマルのあなぐらむのレビュー・感想・評価

4.0
横浜、象の鼻テラスの「海辺の映画会 Vol.2」。象の鼻さんへの持ち込み企画第二弾で上映。結果的にお客さんの反応もこれが一番良かった(第一回の「月曜日のユカ」と双璧)。

見直したんだけど面白い。勿論長谷部さんでは「セックスハンター」が一番好きではあるんだけど、他作品にはないキュートな梶さんやシャイで学生っぽい藤竜也が魅力的。ズーニーブー、太田とも子、青山ミチと贅沢な顔ぶれで、歌謡映画としても秀逸な仕上り。
今回見直してロマンポルノ俳優でもある五條博さん外道炸裂映画だった事や、なんと黒沢のり子(「人妻集団暴行致死事件」室やんの相手役)が出てる事に気づいたり(本作は助監督が田中登なのだった)。岡崎二朗は安定の岡崎二朗であった。

野良猫ロックでは唯一横浜が舞台の本作、脚本は長谷部さんの「野獣を消せ」「みな殺しの拳銃」の中西隆三。永原さんとはまた違う切り取り方で面白い。長谷部さんはお気に入り脚本家と組むケースが多いね、自身も脚本家だからか。
サイドカーにずっと乗ってるドラゴンこと郷鍈治が強烈。范文雀は忙しかったのかな? 別撮り。

マヤこと梶さんは言わずもがなだけど、本作での俺の推しは高野沙理嬢。台詞も少ないマヤの参謀キャラなんだけど、全編不二子ちゃんファッション。顔が真木今日子ちゃんに似てるのも好ポイント。
しかし、野良猫ロックシリーズのの弱点は、この脇の子達が目立たない事。べーさんとパキさんだから無理も無いが、東映ガールズアクションとの決定的な差はここ。脇が立たない。主役勝負。

物語の冒頭、女の子達が「こいつかい?昨日コマそうとしたの?」「そうよ」「アタシ達に手出すとどんな目に逢うか、見せてあげるよ!」ってガイジンに襲い掛かる。出てくる女の子にタフさと強かさがある。映画の中にそれがある。それがいいと思う。自分で守る。そういう心意気。被害者ぶらないこと。

音楽はたかしまあきひこ。お馴染み優作さん版「野獣死すべし」の劇伴の方だが、長谷部さんのこちらは軽快なアップテンポな曲が多く、ボヨーンビヨーンって70年代っぽい音も。山本直純さんのお弟子さんだそうで、だから日活なのね。

全体として通俗的な若者映画っぽく見えるけれど、藤田敏八の様に若者側には感情移入しない、長谷部さんの映画らしさがある。藤竜也の「ノボ」は"nobody"から自らつけた名で、彼の本名は明かされない。脱走兵チャーリーが「I'm not charlie!」と叫んで逃げるのと対照的。マヤに「やつと同じようなもんさ」と語る彼は、恐らくベトナム反戦運動などをやってきた活動家崩れと思われる。シリーズでは珍しくインテリ風の役作りをしている事や、チャーリーと英語で会話している事からも何となくそれは伝わる。彼はネリカン帰りのサブ(岡崎二朗)同様、行き場の無い者なのだ。だから逃げている。ここにはいられないから。

一方でいきがって見せているドラゴン達とマヤ達の追想劇がどこかごっこ遊びじみているのは、彼らがまだ子供の時間にいるからだ。それはチャーリーの逮捕で流された血と、サブの死で断裂される。その銃声が彼らの子供の時間を終わらせる。終わりを告げる高度成長と共に。

劇中、マヤ達が横浜の街をミニバイクDAXで疾走し、中華街の「重慶飯店」の中まで入ってってしまうのは、「ミニミニ大作戦」から拝借したアイデア。長谷部さんの遊び心でもあり、結構重たいムードの本作の清涼剤になっている。