櫻イミト

激怒の櫻イミトのレビュー・感想・評価

激怒(1936年製作の映画)
4.0
ラング監督の渡米第1作。原題「fury(フューリー:激怒)」。

愛し合うジョー(スペンサー・トレイシー)とキャサリン(シルヴィア・シドニー)は、結婚資金のために別々の土地で働き始めた。いよいよ資金が貯まりジョーはキャサリンの住む町に向かうが、道中の田舎町で誘拐犯と間違われ連行されてしまう。。。

人間ドラマに尖った社会批評を内包した簡潔なエンターテイメント。ラング監督はドイツ時代から社会批評性を強く打ち出してきただが、その重点は“人間の闇”にあった(脚本を務めていた当時の妻テア・フォン・ハルボウの個性が大きかったかもしれない)。映像演出も表現主義の作風が色濃くアートよりだったと思う。

渡米第一作となる本作は、それまでの個性を維持しつつハリウッド型の映画スタイルに転換、魔女狩りを思わせる集団狂気や復讐心といった“人間の闇”を、身近なおぞましいものとして等身大に描き出し、その克服としてハリウッドの定番=“人間の聖なる道徳心”を提示している。大衆的でわかりやすく、内なる正義と悪を突き付けられた末の美しい結末に感涙した。他者の過ちを許す決断を、決して聖書の教条によるものではなく「自身の幸福のため」とする主張は強く胸に響いた。

ただ、この落としどころがラング監督の本音かどうかは測りかねるところで、穿った見方をすればハリウッドへの名刺として職人的に割り切ったようにも思える。アートに寄らないハリウッド型の映画文法はラング監督にとっては朝飯前だったのではないか。
櫻イミト

櫻イミト