りょう

ドッグヴィルのりょうのレビュー・感想・評価

ドッグヴィル(2003年製作の映画)
4.4
 20年ぶりに観ましたが、結末をわかっていなければ正視できないほどの酷い物語です。めちゃくちゃ閉鎖的で限界集落のようなコミュニティに迷いこんだ〇〇の娘であるグレースは、一時的に住民たちに歓迎されますが、やがて奴隷のような境遇に陥ります。
 なぜここまで疑心暗鬼になり、いとも簡単に人間関係がこじれてしまうのか…。住民たちの言動が理不尽なのは明確ですが、“逃亡者”であるグレースには抗うこともできず、彼らの醜態が泥沼のように悪化するばかりです。それを観せられるのも相当しんどいのに、緻密な脚本がそうしたシーンを滑らかに展開させています。
 舞台劇のような疑似的空間の演出の意図は、さまざまに解釈できますが、人間の本性やエゴを克明に表現するフォーマットだったということでしょうか。過剰なまでのナレーションが登場人物の心情までも説明するので、なにもかもが晒されてしまい、終盤まで秘密とされるのは、グレースの正体くらいしかありません。
 ラストシーンでは彼女の本性も露呈して地獄絵図のようになりますが、あまりに予定調和な展開すぎて、ラース・フォン・トリアー監督の術中にハマってしまった気分になります。だからといって、彼女が人間の理性を発揮したり、住民たちに道徳的な観念を理解(更生)させるためにどうすればよかったのか…。ある登場人物は、それを実現しようとする彼女のことを傲慢と指摘します。ここに正解が1つしかないとは思えませんでした。
 それにしても、このころのニコール・キッドマンの美貌は、言葉で表現できるレベルを超越しています。あまり表情が豊かな役柄ではありませんが、このコミュニティに馴染もうとする健気な(ある意味で思考停止状態の)グレースは、ピュアな美しさが際立ちます。そんな彼女が住民たちに散々裏切られるサディスティックな演出は、ラース・フォン・トリアー監督が得意とするところでしょう。続編の「マンダレイ」に彼女が出演しなかったことも納得です。
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