くまちゃん

デルタ・フォース2のくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

デルタ・フォース2(1990年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

今作は前作の設定を一部引き継いだのみの全く異なる作品であり、単体として観てもなんら問題はない。
デルタフォースとは第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊の通称であり本来対テロ作戦を遂行する特殊部隊の事を示す。だが何故か今回は麻薬取締局(DEA)の依頼による麻薬王の逮捕という警察のような仕事を請け負っている。

麻薬王ラモン・コタはデルタフォースのマッコイ大佐とチャベス少佐の活躍によりその存在が白日のもとに晒された。
その身は司法に委ねられ、麻薬カルテル殲滅への一助となることを期待されたが判決はまさかの無罪。ラモンは再び闇へと舞い戻る。マッコイとチャベスは知らなかった。ラモンの本当の恐ろしさを。自由の身となったラモンが最初に何をしたのか。部下とともにチャベスの自宅を訪れ彼の愛する妻と自慢の弟を殺害した。さらにチャベス本人もラモンの術中に嵌まり落命する。この情け容赦のない展開はどこかベトナム戦争の名残りのようなものを感じさせた。序盤に拘束された組織のボスが早々に開放され、逆に自身の身内に危害が及ぶこの展開は「ミッション・インポッシブル3」でも見られる。今作が影響を与えたのかどうかは定かではないが、16年後に通じるプロットというのはジャンル映画における一つの正解ではないだろうか。

チャック・ノリスは鬼神だ。80年代に活躍した名だたるマッチョ達を押しのけて、最強の名をほしいままにする。それは我々映画ファンの総意である。つまりチャック・ノリスと対峙した時点で、相手の死は確定しているのだ。だが、今作は少々勝手が違う。ラモン・コタの館に侵入した際、ラモンの腹心の部下が立ちはだかったのだ。この男、強い。その実力はマッコイ大佐いや、チャック・ノリスを追い詰めるほどに。一撃一撃は着実にダメージとして蓄積される。倒れたチャック・ノリスにトドメとしてナイフを刺そうとしたその刹那、男の攻撃は止められた。
この男の動揺は手に取るようにわかる。今までの優勢が嘘であるかの如く心理的形勢が覆った。チャック・ノリスはまだ自分の下に仰向けになっている。この危機感はなんだ?理解できない。野性的本能が、60兆個の細胞一つ一つに至るまで絶望的恐怖に震え上がっている。男は気がついたのだ。目の前に横たわるコレは人間ではないことを。ならば彼の正体はなんなのか。即ち鬼である。
チャック・ノリスは男を投げ飛ばすと不敵に笑んでみせた。反撃とはチャック・ノリスにとって殺戮と同義である。チャック・ノリスが立ち上がると勇ましい音楽が流れる。その様はゴジラやウルトラマンを彷彿とさせた。
相手の正拳突きを受けて止める流れは実に美しく、まさに空手家然とした佇まい。そこからの連続の回し蹴りは旋回が小さく早く、痛みが伝わってくる。ジャン=クロード・ヴァン・ダムとはまた違った流麗さがある。またチャック・ノリスは突きも無駄がなく小ぶりで早い。この身体性がスタローンやシュワルツェネッガーと大きく異なる。
敵の男はチャック・ノリスを追い詰めたにも関わらず敗北を喫した。なぜか。突きを繰り出した時、首を締めた時、チャック・ノリスの意識を刈り取れなかった。それが主な敗因だ。チャック・ノリスの攻撃は一撃が必殺であり、その頃には自分が受けたダメージなどすでに肉体的記憶から抹消されている。

今作は冒頭でのスカイダイビングや肉弾戦に銃撃戦、ロッククライミングにカースタントにバイクスタント、チャック・ノリスが己の肉体に宿る全てを吐き出している。これほど度胸のある人間を見たことがあるだろうか。アジアにはチャック・ノリスと似た系統のジャッキー・チェンがいる。しかしジャッキーはその過酷なスタントとハードスケジュールと怪我の多さから自殺マニアだと評される事がある。つまりジャッキーは無謀代表なのだ。勇敢代表ならばやはりチャック・ノリスだろう。
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