猫脳髄

ルチオ・フルチのザ・サイキックの猫脳髄のレビュー・感想・評価

3.5
2023年秋のフルチ祭り②

ルチオ・フルチの特徴として、自作・他作を問わず、コラージュのようなモティーフの「引用」があげられる。本作における透視能力による事件の予知はダリオ・アルジェント「サスペリア2」(1975)や自作「幻想殺人」(1971、未見)。冒頭にあらわれる投身自殺の演出(名物"崖削れ")は「マッキラー」(1972、未見)。さらに、作品のオチは「恐怖!黒猫」(1980)で再利用されるなど、細かく見ていくともっとあるに違いない(※1)。

ただ、アルジェントを激怒させた「サンゲリア」(1979)も含めて、フルチの悪意と言うわけではなく、職人監督らしい早撮り技術の一環と思われる。また、マリオ・バーヴァ父子やアルジェントらとも協働するイタホラ界の名脚本家、ダルダーノ・サケッティとフルチのコンビが本作からはじまる。

透視能力を持つジェニファー・オニール(※2)が殺人シーンを幻視し、富豪の夫の別荘からは幻視どおりに遺体が発見されるという筋書き。幻視と称して後半の断片的なシーンをカットバックで前半に寄せ、手の内を見せておく効果は「サスペリア2」で実証済みである。この手法は予定調和になる副作用があり、そこから逸脱せずにサスペンスをどう盛り上げるか、そして、幻想が尽きた先に起こる種明かしのスリラーが最大のキモになる。

本作の場合、クライマックスに意外性がなく、やや理詰めで置きに行った感がある。ゆえに、せっかくの幻視設定が予定調和的にしか作動しないのである。フルチならではの人体破壊表現も冒頭の崖削れを除けば、ジャッロと呼ぶにはやはり控え目、王道ミステリの風合いである。

※1 フルチはじめイタホラの「廃墟趣味」は一考に値する
※2 フルチ作品には珍しく、マスキュリンなワードローブがファッショナブルである。そこはハリウッド女優である
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