開明獣

情熱のピアニズムの開明獣のレビュー・感想・評価

情熱のピアニズム(2011年製作の映画)
5.0
その南仏から来た大きな目の陽気な男の名はミシェル・ペトルチアーニという。生まれつき骨に異常がある病気で、身長は僅か1m足らずしかなく、自分で歩くことすらできない。だが、その男がピアノを弾きだすと、誰もが夢中になってしまう。何も知らないで彼の演奏を聴いたら、障碍があるなどとは夢にも思わないだろう。

4歳の時にテレビでデューク・エリントンを観てピアノをねだった。母親が買ってきたのは玩具のピアノだった。彼はそれをトンカチで粉々にぶち壊してホンモノが欲しいとアピールをする。乏しい家計の中、母親は貯金を取り崩して彼にホンモノのピアノを買い与えた。ピアノはペトルチアーニの一部になった。

17歳にしてアメリカ西海岸に渡り、一流のジャスサキソフォンプレイヤー、チャールズ・ロイドに才能を見出され、彼のバンドに参加する。その後は、リー・コニッツ、スティーブ・グロスマン、レニー・ホワイト、マーカス・ミラー、ステファン・グラッペリ、スティーブ・ガッドら名だたるジャズ・ミュージシャンと競演を果たす。

中でも、私が最も敬愛するジャズミュージシャン、テナーサックスのウェイン・ショーターと、ジャズギターの巨匠、ジム・ホールとのモントルーでのライブアルバム、「パワー・オブ・スリー」が素晴らしい。

3人の女性と結婚し、子供ももうけた。音楽と、女性と、酒と美味いものを愛したが、彼が何より愛したのは人生そのものだった。

ダイナミックで粒の揃った音は、時にパワフルに、時にリリカルに聴き手を自在に魅了する。

障碍は彼の一部ではあったが、全部ではない。彼は人生の全てをジャズに献身し尽くした。36歳の生涯全てを通じて、常に全力で火の玉のように情熱的に生きてきた。

本作では、小粋でお洒落で、茶目っ気たっぷりのペトルチアーニの姿を観ることができる。学校にも行ってないのに、仏、英、伊、の3カ国後を流暢に話し、ただ単に情熱的だけではなく、知的でもあったペトルチアーニ。

夜が更けてから、グラスにアルマニャックを注いで、彼のCDをかけて心ゆくまでペトルチアーニ・ワールドにひたる。そんな至福のひと時の機会をくれた彼に感謝したい。
開明獣

開明獣