マーチ

くちづけのマーチのレビュー・感想・評価

くちづけ(1957年製作の映画)
4.6
めちゃくちゃ面白い!

デビュー作、それも70分ちょっとの尺でこれ程までの高揚と余韻を提供してくれる増村保造にはもう頭が上がらない。

ある種計算し尽くされた上に成り立っている作品で、役者の動きもパキパキしていて展開も容赦なく食い気味に先へ先へと進んでいくのに全くズレを起こしていない。それでいて印象的なカットも多く、セリフにも一言一言旨味があり、編集も卓越している。

これは最近『宮本から君へ』を観て影響されたからであるが、川口浩が宮本浩に見えてくるし、偶然にも役名は「宮本」である。笑 この映画の宮本は人間的で純粋で無鉄砲。それ故に野添ひとみ演じる章子との出会いが必然に感じられ、運命めいたものに思える。そもそも出会った瞬間からして只事じゃない面白さに満ちていた。

1作目にして今作以降の増村作品に通ずる作家性が存分に詰まった小粒なのにガツンとくる傑作。タイトルから露骨な恋愛ドラマを想像する人が多いと思うが、全然そんなことはなく、恋愛的な駆け引き云々よりも感情と行動が先走り、理由付けは後から遅れてやってくる。
全ての瞬間が美しく、愛おしかった。
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