ろくすそるす

ラッパー慕情のろくすそるすのネタバレレビュー・内容・結末

ラッパー慕情(2003年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

再見。最近になってふと思ったことだが、昨年のベストに『ローリング』を入れた人は、この映画に不思議と惹かれるかもしれないと感じた。
 ヘタウマ系の漫画を一心不乱に書きまくって公募に落選、持ち込みに失敗しても、それでもこりずに、講談社「モーニング」編集部に2万回の迷惑電話をかけまくって逮捕される、カンフー好きの三男の健太郎。草野球しかしていないスランプ気味の怒りっぽい次男のデブ、マー坊。ラッパーになる夢をあきらめて、謎の人体実験の被験者となっている長男のヨシオ。この、社会とうまくやっていけない、三人兄弟を描いた奇妙な自主制作映画(藤原章監督、田辺尚人氏出演と完全に秘宝系映画)なのだが、ジャンルを越境した異色作に仕上がっている。
 好きなことだけをやって生きていくことは難しい。しかし、逃避を繰り返すどうしようもないダメ人間たちの暮らしぶりが、段々と愛おしくさえ思えてくる(といっても、主人公は大家をする母親の代わりに家賃滞納者に取り立てに行くだけが仕事なのだが……)。
 夢を追う者、夢に破れる者、アウトサイダーたちの織りなす、シュールで、エロあり、切ない恋愛要素あり、アクションあり、片腕ドラゴンあり、『ロッキー』的なスポ根あり、なんでもありの奔放な展開の中に、兄弟愛とかほろ苦さが入っていて、最終的にはスプラッターも入ってきて、ラストではなぜだか妙な感動も覚える。主人公の描いていた漫画の世界さながらの超展開だ。
 腸を引き出してちゅるちゅると啜る井口昇扮するブンちゃんとか、プラモマニアの無職の家賃滞納者、田中などぶっ飛んだ登場人物も多数。それら全てを鉄塔が神の如く見下ろしているという視点も良い。
 所々カメラワークとか最悪だけど、不思議と詩的な演出もさえ渡っていて、愉しい偏愛作。
 ちなみに、ラップはほとんど出てこない(笑)