emily

夜のゲームのemilyのレビュー・感想・評価

夜のゲーム(2008年製作の映画)
4.0
聴覚を失ったソンジェは痴呆が始まってる老いた父と二人で暮らしている。楽譜の整理の仕事と生きたカエルを父のために料理する日々。彼女には抱える過去のトラウマがあり、警察の探してる脱獄犯と接触することにより、今まで寡黙だったソンジェが感情をあらわにしていく。そこに近所の子供も絡んでくる。

彼女が喋れないことが幻想的かつエロティックな描写に非常に効果的に働いている。カーテン越し、特にすだれ越しに父親が彼女を覗き見る描写が絶品である。扇風機の風が髪の毛をなびかせ、溢れる吐息を拾い集めるように、じわりじわりとカメラはソンジェをとらえ、内に秘めた欲望までも映し出しているようだ。

彼女は過去にそうして父から逃れることができない現状に閉じ込められている。時折挿入される過去の回想、そこから今への繋ぎを音や情景で繋いでいく。幻想的な描写の間からは言葉にない痛みが確かに流れ、今に繋がる父の異常な執着をより明確に伝わる。

人は人との出会いにより保って来た規律が崩れだし、秩序が乱れていく。ソンジェには必要だった過程であり、そこから感情あらわに手話で父と口論になるシーンで全てが明らかになる。今までずっと心情を押し殺して来た彼女の爆発には痛切な思いが巡り、それでも隠し切ることのできなかった内なる欲求が間を埋める吐息のように溢れるのが官能的だ。

逃げ出せないのではない。逃げ出さなかったのだ。確かにそこに残る残像と幸せだった日々があるから。父親以上に彼女がそのきずなを求めていたのだろう。空虚でも確かに安全であるから。感情をぶちまけトラウマが過去へと流れていく。そうして心も体も解放されていくのだろう。それはまた囚われの身である少年にもつながっていくのだ。
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