てつこてつ

宋家の三姉妹のてつこてつのレビュー・感想・評価

宋家の三姉妹(1997年製作の映画)
3.4
U-NEXTで劇場公開時以来の再鑑賞。これだけ壮大なテーマと豪華女優陣の共演なのに、何故か、内容に殆ど記憶が無かった理由も判明。

タイトル通り、中国・清王朝の終焉期頃から名家として名を馳せた宗一族(なんとキリスト教徒)の三姉妹の生き様を確かに描いているのではあるが、家族愛のような取っつきやすい内容ではなく、政治色が相当強く出た骨太な歴史物の体となっており、中国の近代史をある程度分かっていないと、この約2時間半の大作を楽しむにはなかなか辛い。

孫文、蒋介石辺りは知っていても、台詞として登場する周恩来や張学良とか、えーと誰だっけ?となってしまい、所々シーンを見返す必要があった。

「かつて中国に三人の姉妹がいた。一人は富を愛し、一人は権力を愛し、一人は祖国を愛した」の出だしのテロップはバッチリ決まっており、山西省の大富豪の元に嫁いだ長女、希代の革命家・孫文の元に嫁いだ次女、国民党の主席で後に台湾の初代総統となる蒋介石の元に嫁いだ三女のそれぞれの生き様を数十年にわたり描いているが、まず、原作物ではない事に驚いた。それだけ脚本は濃厚だが、ちょっと要素が盛り込まれ過ぎ。こういう史実物は雑な作りも嫌だけど、丁寧過ぎるのもちょっとなあ。

また、中国と台湾の関係性を見ると、絶対に中国が製作する訳もなく、香港と日本の合作だからこそ製作できたのだなあと色々納得。

公開当時、そこまで話題にならなかったのが不思議な程、製作費がしっかりかかっており、三女の豪華な宮廷で催される結婚式や、内戦やデモのオープンセットや物凄い数のエキストラ、中国初の飛行機とかをしっかり復元しているのだが、いくらこれだけの長尺でも、とにかく凄いスピードで、油断していると、10年単位で平気に物語が進行していくので、各シーンがそれぞれ短く、何だか勿体無い。逆を言えば贅沢な作り。

孫文が一時期日本に逃亡していて、そこで結婚していた事実は知らなかったが、京都・嵯峨野の竹林や化野念仏寺かと思われる日本でのロケもしっかり敢行。

三姉妹を演じた女優陣がとにかく豪華。長女役には今年のオスカー主演女優賞を獲得したミシェル・ヨー、次女役には香港を代表する女優(且つ個人的には大ファン)のマギー・チャン、この二人には知名度では劣るものの三女役は「ラスト・エンペラー」「ディナー・ラッシュ」のヴィヴィアン・ウー。作品全体を通しては、マギー・チャン演じる次女がヒロイン設定。若かりし頃の三人の美貌も一見の価値有り。

個人的にはイデオロギーの違いから次女と三女がぶつかり合いながらも姉妹としての想いはしっかり伝わる、物語の後半になるに連れて面白く感じた。

ただ、違和感を覚えたのが、マギー・チャンの地声は比較的低く、それがまた彼女の魅力なのに、この作品では非常に甲高く聞こえること。キャラクター的には標準中国語を話さねばならぬ設定故、香港出身の彼女は広東語しか喋れず、ひょっとしたらアフレコされているのかも?マレーシア出身のミシェル・ヨーのこの作品での声にも同様の違和感有り。

終盤になって、唐突に駆け足気味になるのも勿体無い。

それでも、やっぱり再鑑賞出来て良かったなあとしみじみ思う力作。

それにしても実在したアジア圏の三姉妹では、国政に影響を与えたという意味では最強じゃないかな。言うなれば中国版「ブーリン家の姉妹」じゃん。
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