櫻イミト

オペラ座の怪人の櫻イミトのレビュー・感想・評価

オペラ座の怪人(1998年製作の映画)
3.5
アルジェント監督版「オペラ座の怪人」。音楽エンニオ・モリコーネ。ヒロインは監督の娘アーシア・アルジェント。

東映エログロ路線のような「オペラ座の怪人」で面白かった。モリコーネの音楽やオペラ座と地下洞窟のロケーションは実に素晴らしい。反面、話の展開とグロ描写がいかにもB級映画風で、このバランスの悪さが味になっていた。

本作のファントムは顔に傷はなく仮面も付けていない。川に捨てられた赤ん坊がオペラ座の地下に流れ着き、ネズミたちに育てられたという設定。イケメン風だが性格は無慈悲で、地下に入ってきた者は瞬殺する。動物的テレパシーを持ち他人を操ることが出来る。

テレパシーの力?でクリスティーヌを虜にするファントム(そう解釈しないと彼女が淫乱女に見える)。しかし身体中にネズミをまとわりつかせて休んでいるところをクリスティーヌが目撃し気持ち悪がって逃げてしまう。荒唐無稽なドギツイ展開も東映エログロ路線の軽薄さと共通している。ラストの止めカットは石井輝男監督風。

ただ見逃してならないのは冒頭とラストの円環構造。赤ん坊ファントムがが地下に流れて来た時の主観ショットは洞窟のゴツゴツとした天井だった。そして最後に脱出するクリスティーヌの主観ショットも同じである。闇の世界への入場と退場が様々な意味を喚起させる。これをしっかり押さえているところにアルジェント監督の流石のこだわりが感じられた。

娘に濡れ場を演じさせるアルジェント監督。劇中、ファントムと交わったクリスティーヌが「私は清純じゃないの」と嘆くと、ラウル侯爵は「誰の魂にも闇がある。恐れることはない。それが人間なのだから。」と説く。この台詞は監督が娘に贈った言葉のように思える。

ファントムの宿敵役となるオペラ座のネズミ退治職人コンビが本作のスパイスとなっている。彼らが発明したネズミ捕りマシンはスチームパンクな魅力があり、「帝都物語」(1988)で洞窟を突き進んだロボット”学天則”を想起した。

捨て子がネズミに育てられる設定は、劇画の名受け親・辰巳ヨシヒロのカルト劇画「地獄の軍団」(1982)を連想した。アルジェント監督は日本のサブカルチャーに触れていただろうか?
櫻イミト

櫻イミト