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秋の理由の海のレビュー・感想・評価

秋の理由(2015年製作の映画)
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時間や場所、わたしたちをくるみ動き続けていたそれについて語りつくすことは、一生をかけても出来やしないから、そのなかに居るあなたや、そのなかに居たわたしを、しおりのようにはさむことで、逸る心から飛んで出ていこうとする言葉を落ち着かせる。どちらがさきか判らず、幸福だと信じてきたものが、ただ幸福に寄り掛かっている何かかもしれないと思う。そこに在ると信じてきたものが、ただ真実に在るものに寄り掛かっている何かかもしれないと思う。詩が好きで、書く時間も読む時間も大切にしているけど、死ぬほど嫌いな言葉の並びの感じというのも同時にあり、それを前にするとき自分は、物凄く傲慢な人間になる。もうとっくにわかりきっていることを、濡れた服の上から触れているような温度で語らないで。誰に向けるでもなく紡ぎ出された言葉が、本をひらく人の前ではその人のみに向かって刺さる。それって何なんだろう。これ以上つめたくもあたたかくもならない人が怖い、目の前に聳え立つ壁を見てどんな絵が描けるかも知らない、これより先になにかある、これより奥になにかあるのが分かっているから苛立つ。矛盾と嘘が人のすべてだとあなたが言うのならわたしは何も言わなくて済むのに。わたしはあなたから遠ざかって、遠ざかって、ほんとうに遠くから、あなたがどんな顔をしているかは見えないけれど、目を凝らせばあなたのすがたとわかるくらいの遠さで、あなたを見、あなたを聴き、あなたを感じ、あなたをおもい、わたしのすべての感覚を、使い果たしたいと思っていたの。そこに無いんじゃなくて、ただ、見えていなかっただけの色んなもの。
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