ギズモX

殺人者はライフルを持っている!のギズモXのレビュー・感想・評価

5.0
B級映画の帝王ロジャーコーマンが亡くなられた。
激動の60〜70年代にドライブインシアターで一大帝国を築き上げ、様々な名監督を世に送り出した彼は最後まで生涯現役を貫き通した。
ロジャーが制作した映画は『デスレース2000年』など、低品質なゲテモノが多かったが、中には大真面目に撮られた作品も存在する。
その内の一つが、この『殺人者はライフルを持っている!』
『ラストショー』のピーターボグダノヴィッチの監督デビュー作であり、彼の最高傑作だ。

《かつて怪奇映画のスターとして名を馳せたバイロン(ボリスカーロフ)は落ち目を感じ引退を決意するが、新人監督(ピーターボグダノヴィッチ)に説得され、ドライブインシアターの舞台挨拶をすることに。
丁度その頃、平凡な青年が突然ピストルで家族を皆殺しにする事件を起こし、更にその青年はハイウェイを走行する車列にライフルを乱射して市民を次々に射殺していく。警察の追跡を逃れた青年は、バイロンが出席する予定のドライブインシアターに逃げ込み、映画が上映される中で次の銃撃事件を起こすのであった》

60年代後半の映画界と、1966年に起きたテキサスタワー乱射事件の影響を強く受けた、それまでの映画界と現実社会を総括するサスペンス映画。
映画の内容と現実をリンクさせる構成の上手さに度肝を抜かれる。

まず、劇中の最初に上映される映画は、ロジャーが監督した低予算映画『古城の亡霊』
本作で主演を務めるボリスカーロフだけでなく、デビュー前のジャックニコルソンやディックミラー、フランシスコッポラにモンテヘルマンなど、数々のレジェンドが集って制作された作品だが、その内容ははっきり言って散々な出来栄えだった。
カーロフがその映画の試写会で「つまらない」と言い放ち、子供騙しな映画しか作れない現実に意気消沈するところに、当時の彼らの心情とハリウッドの限界が表れている。(ちなみにこの手法は後にジョーダンテが、彼の監督デビュー作『ハリウッドブルーバード』で同じことをやってのける)

そしてもう一つの軸となるのが青年による銃撃事件。
一番恐ろしさを感じるのは、犯人はなぜこのような凶行を行うに至ったのかという動機が全く描かれないことだ。
どこにでも居そうな若者が銃を手に取り、無差別に殺戮を繰り広げる理由なき暴力は、今でも続くアメリカの現実社会の恐怖そのものであり、物語のクライマックスではその現実社会の恐怖を体現する一人の青年と、堕ち行く映画の現実を体現する一人の俳優が対峙する。

当時のアメリカは暴力が横行し、ハリウッドも衰退していた。
TVや新聞では公民権運動やベトナム戦争の悲惨なニュースが流れる中で、大衆は目を背けたままだった。
この状況を打破するには現実をスクリーンに映し出し、世直しを試みるしかない!
テキサスタワー乱射事件が起きた1966年、ある一本の映画が公開される。
社会のはみ出し者で構成されたバイカー集団ヘルスエンジェルスのリアルを描いた、ロジャーコーマン監督作品『ワイルドエンジェル』
その『ワイルドエンジェル』の主演を演じたピーターフォンダは、この『殺人者はライフルを持っている!』が公開された翌年、アメリカンニューシネマの金字塔『イージーライダー』を世に放つ。
ハリウッドが歴史上最も現実に目を向けていた時代の始まりだ。

ロジャーがいなければ今の映画界は無かったであろう。
彼は映画界のマスターピースだった。
レジェンドの意思がいつまでも映画の中に宿りますように。

「帝国はいつ滅ぶのか。恐怖の瞬間が訪れた時に崩壊するのか? 違う。大衆が信じなくなる時だ」
フランシスコッポラ監督作品『メガロポリス』の予告編より
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