半兵衛

実録・安藤昇侠道(アウトロー)伝 烈火の半兵衛のレビュー・感想・評価

4.2
次から次に仕事を引き受け、しかもその大部分が傑作(『新仁義の墓場』、『荒ぶる魂たち』、『牛頭』など)という絶好調な時期の三池崇史が放ったヤクザ映画。脚本の武知鎮典とコンビを組んでいる時点で見る前から「これはヤバイぞ…」と予感させ、鑑賞すると予想以上に常識をぶち破った展開と三池崇史のノリノリな演出が脳内のアドレナリンを呼び覚ます麻薬みたいな映画と化しひたすらハイな状態になって楽しめ、そして見終わったあと満腹感と疲労感に襲われる恐ろしい映画に仕上がっている。あとタイトルに安藤昇や実録と銘打っているのに全く関係ない三池流の漫画チックなヤクザ映画になっているのが三池らしい(安藤先生度量が広すぎる)。

『太陽を盗んだ男』の菅原文太状態の内田裕也と留置所の面会する場にあるガラスを叩き割る竹内力、内田裕也を殺すため疾走する山口祥之が交差する冒頭からハイテンションな語り口で、それ以降もそのスピードが落ちることなく最後まで維持されるのでジェットコースターや絶叫マシンに乗ったような状態で映画を楽しめる。それに加えて竹内力が行動を起こすたびにかかる「あああーあーあー」という声の入ったノリノリなメインテーマがハイテンション感を倍増させる。

映画の内容も大組織の謀略に挑む小規模なやくざの意地からくる戦いを描いていて盛り上がるが、敢えて任侠道などという物には触れず、ひたすら血の騒ぐまま戦闘の中に入っていく奴らの姿を描いているのがポイント。そしてその中にあるドライさを増幅させるのが竹内力のグループと敵対することになる美木良介&山口祥行のヒットマンコンビで、傍目から見るとサラリーマンとアルバイトのような全然ヤクザに見えない風貌と飄々とした態度が観客をリラックスさせ、作品に適度な距離を保たせている。竹内力とその舎弟・遠藤憲一がどっちかといえばウェットなのに対し、美木&山口コンビはひたすらドライなので作品のバランスも取れている。

ラスト、二つのグループがようやく戦闘になるところで観客の期待を裏切ることをするのがさすが三池監督。そしてこれ以上書くとネタバレになるので触れないが、この手の作品としては珍しい終わり方に。でも血の騒ぐままにしか生きられない馬鹿な奴らを、物悲しくも明るく描いているこの映画には相応しいかも。

三池監督の常連キャストによる熱演も最高で、フェ○されていっちゃう石橋蓮司、首だけの原田大二郎、美味しいところに出て来て場をかっさらう丹波哲郎、死んだはずなのに不意に登場する内田裕也、ほんのちょい役なのに目立つやべきょうすけ…。そして竹内力に最後までついていく舎弟の遠藤憲一の熱気と女にふと見せる感情に涙。あとは竹内力(とそばにいるエンケン)のハイテンションなロケットランチャー発射!

ちなみに竹内力と女性のラブシーンが劇中にあるが、こういうシーンで見せる竹内の水島道太郎のようなムードある表情、濡れ場が似合う姿に「そういえば竹内力って二枚目俳優だったんだよな」ということを再確認させる。

2021年10/19追記
竹内力の「帰らねえと強○しちまうぞ」という台詞を聞いたとき、もしかしたら監督や脚本は『アフリカの光』にインスパイアされてこの作品を作ったのかと思ってしまった。竹内力と遠藤憲一、美木良介と山口祥行の上下関係を越えた濃厚なコンビっぷりもどこかショーケン&田中邦衛っぽいし。
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