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13回の新月のある年にのbennoのレビュー・感想・評価

13回の新月のある年に(1978年製作の映画)
4.1
ファスビンダー監督作品…12作品目…。

新月が13回巡る年と7年おきに来る太陰年…その両方が重なる年に起こり得るのは惑乱か…??

エルヴィラというトランスセスシャルとエルヴィンの男性性が交わるアイデンティティの彷徨う最期の5日間…。

エルヴィラとはかつてエルヴィンという男性…好きな彼に「お前が女なら良かった」と言われ、安易に性転換手術を行ったトランスセクシャル…。


男装のエルヴィラ…街頭に立つ男娼を求めるも…《女》であると気付かれ袋叩きに…流れるマーラーの交響曲5番『アダージェット』はヴィスコンティ『ベニスに死す』を想起します…。

元々ゲイではなく妻子もいたエルヴィン…身体は女性でも心は女性に成り切れていない…手術後のエルヴィラの心と身体の矛盾、性的アイデンティティが交錯し、彼女を追い詰めます…。

ハイヒールを履くと2メートルにもなる大女…周りからは肥満やブタ女と揶揄され、どんなに美しく着飾っても…どんなに繊細な所作であっても…どこか痛々しいのが切ない…。

エルヴィラの自分語りのシーンはなんと牛の屠殺解体場…本物の臓物と溢れる血…ノエの『カルネ』より数倍グロくて…直視出来ない程です…ს


獣は孤独に死を待つ…
救済を求めるその姿は…美しい…


まるで自分の姿を牛と重ねているように…

不確かな性からの脱却を求めてこれまで関わって来た人物たちを訪れるエルヴィラ…。

しかし彼女の居場所は…??




閉塞感を抱かせる画角や構図は息苦しさを感じ…鏡や蝋燭の演出にアートワーク…ランプシェードを通した光と影は幻惑的で常に死の香りが漂います…。

絶望的な心情をエネルギーに変えていく人物を描くことが多いファスビンダー…しかし彼らの結末には容赦がありません…ただ常にマイノリティに寄り添うファスビンダーの姿勢はいつもながら大好き…。

また、ロキシー・ミュージックの♪ A Song for Europeの音楽の流れる西ドイツのサイケなアーケードはカッコよく…ファスビンダーの舞台演出のような人物の動きもあざとくて好き…。


そして…今作はファスビンダーのパートナーの自殺後に作られた作品でもあります…。

エルヴィラの最期のモノローグ…堪らなく切なくて…泣けます…。

ファスビンダーだからこその作品…。
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