ルサチマ

ランニング・フェンスのルサチマのレビュー・感想・評価

ランニング・フェンス(1978年製作の映画)
4.8
海へと続く巨大なカーテン(=ランニング・フェンス)を建設する過程の中で、現地の行政との軋轢が議論を通して描かれていく。『ヴァレー・カーテン』では作業を共にする労働者との間で生じる葛藤が描かれるものだとしたら、今作を含め『パリのクリスト』と『アイランズ』ではクリストのプロジェクトを成立させるまでの困難(アートと政治の対立)が主題となる。今作はそうした行政との対立の中でクリストたちの計画の進め方に対する批判的眼差しが導入されることや、一度始まった計画が再び行政によって中止の圧力をかけられるという危機が生じることによって、クリストの計画に参加する労働者たちのレジスタンス的活動が記録される点において非常にユニーク且つ批評性を伴うドキュメントとなっている。

限られた制作時間の中で、行政に抵抗するようにカーテンを地に刺していく行動が反復されるからこそ、海へと続く超巨大なランニング・フェンスが地平に対して垂直に建造されたことの意味を考えずにはいられない。とはいえ、完成したランニング・フェンスが受け取り、反射する現地の光線はそうした人間同士の軋轢などとは無縁に柔らかに輝く。丘陵地帯の襞を強調するように、ランニング・フェンスも布の弛みを作り出しながら、人工的であり自然的である光線処理を実現していく。その雄大さをいつまでも見ていたいと思う中、静かに終わりの時間が記録されることの刹那的な儚さと優雅さを見事に捉えたメイズルス兄弟は流石としか言いようがない。
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