さすらいの用心棒

藁の楯のさすらいの用心棒のネタバレレビュー・内容・結末

藁の楯(2013年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

懸賞金10億のクズを、命懸けで移送せよ!


世評に違わずかなりぶっ飛んだ映画ですね(笑)
ぶっ飛んでるのはストーリーもそうだけど、登場人物の行動原理をほとんど理解できなくて、面白さよりも戸惑いが先に立ってしまった。

藤原竜也は、何もかもがわからん。これ以上人を殺さないでという遺言を残して自殺した母に涙を流すくせに、その直後にまた殺人を繰り返してしまう矛盾が「人間」と言えばそれまでだけど、「シリアルキラー」という設定だけで観客にその急転換を納得させるのはすこし強引な作法だと思う。

次に体内にGPSを埋め込んで暗殺者たちに位置を知らせていた岸谷五朗。彼のせいで腹心の部下がひとり射殺されてしまったわけだけど、あんなに悲しんでいたくせに弁明の時には完全にスルー。キャラクターに深みを持たせたかったら、せめて触れてあげて。

藤原竜也に隙を突かれて射殺されてしまう松嶋菜々子。この直前に油断して藤原竜也を逃しちゃってるのに、どうしてまた隙を作っちゃうんだ!

まあ、ツッコミを入れると切りがない。
次々に現れる刺客とどうやって対決するか、といった活劇的場面が小出しに繰り出されて決して退屈はしないし、以上のような引っ掛かりを置き去りにするストーリーの勢いは楽しい。

ただ、「このクズに命をかける価値があるのか」といった映画のテーゼに関わることを反復してキャラに喋らせたり、登場人物に過去を背負わせてペーソスを利かせたりといった邦画の苦手な要素がてんこ盛りで、やっぱり疲れてしまう。

ただ、それでも、家族を殺されたという同一の境遇を持ちながらそれぞれ異なる選択をした大沢たかおと山崎努が対峙するラストは、たぶん黒澤明監督『天国と地獄』で同じ貧困にあえぎながら犯罪に走った山崎努と高潔を貫いた三船敏郎が対峙するラストへのオマージュだと思うけど、50年経っても同じ役回りをやらされる山崎努を見て、胸が打たれた。

三池崇史監督はほかに『一命』『風に立つライオン』『ラプラスの魔女』しか見たことないけど、正直なところ苦手意識はかなり強い。ただ、この人が何を重視していて、それにどう乗っかるかで楽しみ方が格段に変わる人だということが何となくわかった気がする。その見かたを習得できただけでもめっけもんか。