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かぐや姫の物語のCocoonのレビュー・感想・評価

かぐや姫の物語(2013年製作の映画)
5.0
好きすぎてDVDも持っているほどだが、久しぶりに再視聴。

この映画の魅力の真髄は、なんといっても美しい日本の自然や農村風景、そして文化の描き方だ。
一つひとつがまるで絵葉書のようで、細部に至るまでその美しさを描き切っている。

表情や心情の描写が秀逸で、まるで日本画や水墨画の世界に迷い込んだようでもある。
水彩表現は日本の風景を描く上では、必須であったといえる。ここまでの表現を実現したこと、本当に製作陣には敬意を表する。

また原作にないキャラクターを木地師としたセンスにも脱帽。
物質的な都の人々や生活と対照的に、漂白民である木地師や、農民たちの生活をかぐやの価値観の根幹を成す原風景として描いたことも素晴らしい。
以前に視聴した時には木地師についてよく知らなかったので気付けなかったが、今回は知った上だったのでその意図がよく理解できた。炭焼き師を通しても知る、日本の農村の優れた自然管理方法を、ごく自然に物語の一端として提示していることは見事。
ジブリ作品はどの年齢になっても楽しめるのは、こうやって自分の立場や視点が変わるにつれて、再発見があることも大きい。
(木地師について知りたい方は「知られざる日本人」を読むことをお勧めする。)


原作も貴族や天皇をあからさまにこき下ろす権力批判の物語としての側面もあるという説があり、今作はそこに現代の権力構造批判であるジェンダーを盛り込んだのであろう。

五人の貴族はいかにもありそうなしょうもない男性像を類型的に描き、天皇に至っては権力で人を意のままにできると考えている醜悪な男性そのものである。
いずれにしても、かぐやを「物」として捉え、貴族や天皇は社会的な評価の高まりを受け、かぐやを他の男性に先んじて自分の「物」とすることで己の権力を強化しようと試みる。義父は自身の出世のため、かぐやを教育という名の順化をし、コントロールし取引材料として使おうとする。
こうした家父長的な男性社会に対して、義母はかぐやの原風景を大切にする真情を理解し守り、従者の娘の最後までかぐやの側にいて守ろうとする、女性の象徴となっている。
かぐやがこうした権力構造内に取り込まれることを良しとせず、構造の外にいる男性を選んだことも、現代においての男性によって作られた権力構造への批判精神を感じた。

また物質主義的な社会へ向けて、人間の幸福とは何かを問い糺す内容になっていることも、この物語が優れている理由の一つだろう。
かぐやの成長物語を通して、人生の面白さ、難しさ、人間讃歌を描いているところも、この作品が好きな理由だ。最後は本当に圧巻で、音楽も素晴らしい。余韻の残る内容になっている。
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