櫻イミト

不運な人々の櫻イミトのレビュー・感想・評価

不運な人々(1921年製作の映画)
3.5
ドライヤー監督がデンマークを離れて初めてドイツで制作した4作目。20世紀初頭、帝政ロシアで生じたユダヤ人大虐殺の悲劇をリアリズムで描く。実話小説「互いに愛せよ」の忠実な映画化。

ドライヤー監督が強い影響を受けたアメリカ映画「イントレランス」(1916 グリフィス監督)の演出手法に加えて、当時勢いのあったドイツ映画(フリッツ・ラング監督の台頭など)の撮影技法も取り入れられ、見ごたえのある仕上がりになっている。クライマックスの群衆シーンとヒロインの救出劇は明らかにグリフィス的だ。しかし物語が悲劇すぎてカタルシスなど微塵もない。監督の2作目「サタンの書の数ページ」(1919)でも感じたことだが、本作にも“見えざる神の手”を宿らせているようで怖かった。例えばクライマックス前に兄が遭遇するコサックダンスを踊る男の突然死。脈絡なく挿入されるこのシーンは“不吉な予感”を示すものだと思われるが、あまりにも不可解な白昼夢のようで、逃れられない神の定めた運命を感じさせるドライヤー監督ならではの表現に思えた。

※1921年の映画
「死神の谷(死滅の谷)」フリッツ・ラング(ドイツ)
「嵐の孤児」D・Wグリフィス(アメリカ)
「愚なる妻」エリッヒ・フォン・シュトロハイム(アメリカ)
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