Arlecchino

25年目の弦楽四重奏のArlecchinoのレビュー・感想・評価

25年目の弦楽四重奏(2012年製作の映画)
3.8
原題「A Late Quartet」。後期の弦楽四重奏曲、末期の弦楽四重奏団、のダブルミーニングです。邦題も「25年目の弦楽四重奏」で「曲」とも「団」とも取れるよう考えてるんでしょうね。頑張りました。「後期弦楽四重奏曲」といえば、クラシック好きなら例のベートーベンの最高峰の楽曲群をしめすのかな、と思うでしょう。期待にたがわず後期:作品番号131の演奏をめぐる末期の弦楽四重奏団のお話です。

私は自身が弦楽器を弾く音楽ファンで、ベートーベンの後期弦楽四重奏も好んでよく聴きますが、この映画は演出のための音楽的な妥協がないところが素晴らしいと思いました。選曲からしてシブいですからねえ。クラシック音楽を題材にした映画はよくありまして、「敬愛なるベートーヴェン(これも後期弦楽四重奏[大フーガ作品133]が重要なモチーフでした)」とか一昔前の「のだめカンタービレ」とか、クラシック音楽を知ってる人から見ると「ありえねー!」というシーンが結構ある(のだめはそこが笑う所でもあるが)のです。どうせ素人にはわからないだろうからと思って手を抜いたり、盛って見せたりしたなって興ざめしてしまうものです。でもこの「A Late Quartet」にはそういう誇張された部分や歪曲された瑕疵がほとんどありません。カザルスやシューベルトの引用も納得です。1stバイオリンと2ndバイオリンを交替して弾く、なんてのも一昔前なら「ドラマのために盛ってるなー」と思っちゃうような話なんですが、実際最近はそういう弦楽四重奏団(エマーソンカルテット)がいますからあながち歪曲ともいえない(むしろエマーソンカルテットを知っているとリアリティがある)のです。でもバイオリンのオークションのシーンで、一流プロが弾く良い楽器だったら$25,000は安すぎるんじゃないのかなあ。もう一桁、って感じ。せめて7、8万ドルクラスのものが欲しいなあ。

冒頭タイトルロールの最後の方にアンネ・ゾフィー・フォン・オッター(スウェーデン出身のメゾソプラノ歌手)の名前がでてきたので、おや、と思っていたら遺影で登場(チェリストのピーター=ウォーケンの亡くなった奥さん)! 写真のみの出演かよ?と思いきや、ちゃんと歌う素晴らしいシーンがあって素敵でした。よかったよかった。
Arlecchino

Arlecchino