アニマル泉

ペトラ・フォン・カントの苦い涙のアニマル泉のレビュー・感想・評価

4.5
ファスビンダーが自らの戯曲を映画化した。5幕構成になっている。
【1幕】ペトラ(マーギット・カーステンゼン)とシドニー(カトリン・シャーケ)の会話。ペトラが素っぴんから化粧するのが凄い。手鏡が効果的に使われる。そしてカーリン(ハンナ・シグラ)との出会い。
【2幕】ペトラとカーリンの一夜。
【3幕】ペトラとカーリンの同居生活。カーリンの外泊をペトラが非難する。カーリンの夫から帰ってきたという電話。カーリンが去る。
【4幕】ペトラの誕生日に娘ガブリエル(エファ・マッテス)母ヴァレリー(ギーゼラ・ファッケルディ)シドニーが集まる。カーリンから連絡がなくて不安定なペトラは遂に壊れてしまう。
【5幕】カーリンからまさかの電話がくる。ペトラはあえて会わないと告げる。そして秘書のマルレーネ(イルム・ヘルマン)に今までの酷い仕打ちを詫びてもう一度寄りを戻したいと懇願する。しかしマルレーネも去り、ペトラは一人取り残される。
本作で特異なのは人物の位置関係だ。決して人物同士は向かい合わない。部屋にはベッドしかない。4幕はベッドも片付けられてカーペットだけだ。椅子や机がないのだ。登場人物は並ぶか、背中合わせになるか、寝そべるか、一人は歩き回るかしかない。普通に椅子に座って対面するのを徹底して禁じているのだ。一番頻出するのが手前のカメラ向きに喋る人物の奥に相手がいる人物配置だ。そして長回しが多い。向かい合う方が役者はお互いの気持ちをやり取りして芝居がしやすい。しかし本作は孤独やコミュニケーションがテーマなのでファスビンダーは安易な芝居を封じたのだろう。しかも長回しで撮るので芝居がジリジリと持続する。その結果、それぞれの気持ちの変化が異様な緊張感をはらみながら深く掘り下げられていくことになる。
では人物が向かい合うとどうなるのか?ペトラがカーリンと向かい合った時、ペトラはカーリンの顔に唾を吐き、二人は破局する。ペトラがマルレーネに向き合った時、マルレーネはペトラの手にキスをして去っていく。本作では向き合った時に別れが訪れてしまう。傲慢な態度を重ねていたペトラが相手にやっと向き合っても時遅しで苦い涙を流すことになるのだ。
冒頭のタイトルバックは階段の猫の実音だけで音楽がなくいきなり緊張感が高まる。その後も劇伴奏はない。レコードをかける時だけ音楽が流れる。
ペトラの部屋の巨大な宗教画、マネキン人形が効果的。4幕での女性4人の衣装がカラフルだ。
ミラーショット、フレームショットが多用される。
カラースタンダード
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