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野獣死すべしのtakのレビュー・感想・評価

野獣死すべし(1980年製作の映画)
3.7
初めて本作を観たのは、松田優作が亡くなった翌年に代表作が放送された時だと記憶している。出演した「太陽にほえろ!」や「大都会PART 2」はリアルタイムでは見ていなかったし「探偵物語」も後追いなので、僕は当時からの熱心なファンでもなかった。しかし、松田優作ってなんかカッコいい…と意識したのは、実はドラマや映画ではなくて音楽だった気がする。

ともあれ、「野獣死すべし」は、松田優作の凄みと狂気をどの作品よりも感じた衝撃作。通信社を退職して、翻訳のアルバイトをしている主人公。映画冒頭でいきなり豪雨の中で警察官を殺害し、奪った拳銃で闇カジノの暴力団員を皆殺しにする。とにかく口を開かないし、主人公を理解するための説明くさい台詞は一切ない。無言でクラシック音楽が流れる場面が続く。昔の映画は観客に媚びてない。静かなのに、この映画について来られるか?と煽られているような気持ちになる。

ストーリーが進み、彼の素性と過去が少しずつ明らかになってから、主人公の狂気がにじみ出てくる。場末でくすぶっていた鹿賀丈史演ずる青年を仲間に加え、銀行強盗を計画する。このあたりから死に対する耐性ではなく、殺しへの執着めいた感情を持つ人物だと示されていく。そして映画のラストで、主人公にかつて何があったのか語られて、僕らはようやく人物像を知ることができるのだ。謎を残したまま進むストーリーを、普通ならミステリアスと形容するところだろうが、踏み込んではならない闇に誘われるようにも感じられる。初めての殺人を経験した鹿賀丈史に、「君は今確実に美しい」と言い放つ。

2023年10月、BS12の放送でウン十年ぶりに再鑑賞。主人公のキャラクターはとにかく不気味だ。役作りのための風貌だけでなく、まばたき全くをしない松田優作の演技はスクリーンのこっち側にいる僕らをも不安な気持ちにさせる。最初に犯罪を見せつけてその人物と心理に迫っていく構成だから、最後まで僕らは一歩引いて彼の出来上がった闇を垣間見ている。戦場が人の気を狂わせる、そうした理解で僕らは、日本映画史上に残る難解なラストシーンを迎えることになる。

だがこれが逆の構成だったらどうだろう。戦場で目にしてきた惨状や体験を示され、それが今の彼を闇に陥らせました。それが原因で彼は犯罪、殺しに手を染めるようになったのですという構成だったら。僕らは一歩間違うと彼の理解者になってしまう大きな危険がある。それをやっちまったのがあの「ジョーカー」なんだろう。

陰惨な物語に華を添える小林麻美が美しい。そして刑事に銃を突きつける列車内のシーンの緊張感。リップヴァン・ウィンクルの話をして、酒の名前を口にする場面は忘れられない。僕はカクテルXYZを呑みたがるのだが、そのルーツは「シティハンター」ではなくこっちなのです。それにしても観客を突き放すようなラストシーン、すげえ。

鑑賞記録は初回を記す。
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