櫻イミト

デデという娼婦の櫻イミトのレビュー・感想・評価

デデという娼婦(1947年製作の映画)
4.0
「望郷」 (1937)と同原作のフレンチ・ノワール。本作は女性視点で描かれ主演は初期のシモーヌ・シニョレ。監督はルノワール門下のイヴ・アレグレで当時のシニョレの夫。

ベルギーの港町アントワープ。酒場ビッグムーンで働く娼婦デデはヒモのマルコに支配され全てを諦めて生きていた。ある日、港に来た貨物船の船長フランチェスコが旧友である酒場主人の元を訪ねる。デデと彼は魅かれあい酒場主人も後押しするのだが。。。

「望郷」も良い映画だったが、本作のほうがさらに好みだった。冒頭から埠頭を360度パンで捉え、そこにデデがフレームインしてくるという大胆な長回し。その後も主役カップルの歩きを繰り返し長回しで追いかけていて、霧のかかった港町の空気が臨場感を伴って伝わってくる。その雰囲気の中で交わされる二人の会話が、今で言う”チル”(≒まったり)した具合で非常にリアルだった。

当時シニョレは27歳。諦念の中に若さという希望が眠るデデを好演している。前半、港の男たちの喧嘩を前に「男が殴り合うの見るのが大好きなの」と目を輝かせるシーンは本作のポイントであるが、これ以上ないくらい実に見事に表現していた。

ラストのインパクトも強く、映像もシニョレの演技も印象深い隠れた傑作だと思う。
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