ふじこ

レイルウェイ 運命の旅路のふじこのネタバレレビュー・内容・結末

レイルウェイ 運命の旅路(2013年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

未だに自分の中で戦争を終える事が出来きず、上手く生きる事が出来ない中年男性と、彼をなんとかしてあげたい妻。
想像に苦しみ泣き嘆き、妻に尋ねる事を許さず、それでいて家を訪ねてきた集金人にカッターを振り回す。
夫はもう限界だと悟り、退役軍人施設へ向かい、夫の従軍時代を知る仲間から昔の話をしてもらう事にする。
そして、強く記憶に残る日本軍の通訳だった男が存命で、タイでイギリス兵が体を張って作った鉄道を見世物に日銭を稼いでいる事を知り、会いに行く事にする。


ってお話。
奥さんの主人公への愛が本当に強い。
話に聞きに行った夫の従軍仲間であるフィンレイが、通訳が生きている事を告げ

我々は生きてなどいない フリをしているだけ
愛することも 眠ることもできない
幽霊の軍隊だ
私のために やれ 頼む

と言い残し、鉄道に乗って去った後の駅で首を括って自死を選ぶ。
その訃報を伝えると、君が余計な真似をするからだ、結果に満足だろ?と答える。
同じくフィンレイが言っていたように、愛していると口では言うけれどまるで罰しているようだった。
奥さんに罪はないし、愛しているのも本当なのかも知れないけれど、自分の感情は口にせず奇行に走ろうとただ黙って耐えるように強いる。
そうする他ない若い時代の記憶に一生苦しむ人もいるって事実が悲しいし、やり方すら分からないのかも知れないけれど、愛しているが故に話して欲しいし生きて欲しい奥さんの気持ちと相容れない。

フィンレイに話を聞きに行った時に退役軍人施設の前で、別の老人が妻に冷たく当たるシーンが一瞬差し込まれていたけれど、施設の中では皆穏やかに紅茶を飲んだり思い思いに過ごしているのに、主人公と同じく抜け出せない戦争の中にいる人は沢山いるんだな…って思うシーン。
目に見える怪我ではないし、同じ場所に居たわけでもないから何があったのかも分からない。それでも支え続けて幸せになって欲しいと願える人が妻であって、そこだけはとても幸運だったんじゃないかなぁ…。

そしてあの時最も自分を苦しめた男に逢いに行き、互いに色んな思いを手にしたまま赦す事を選ぶ。
贖罪の機会を心のどこかで待ち続ける事も辛いし、誰にとっても傷しか残らない戦争に駆り出された人達の長年の苦しみを和らげる事の難しさと、それでも苦しみ続けるしかない人達の悲しさと、癒やされた人達の幸運と、色んな事を考えて胸がキュッとなる映画だった。

"レイルウェイ"ってタイトルだし、無理矢理鉄道を引く作業に駆り出される話かな…?と思ってたらそんな事は全然なかったんだけど、選択の余地なく歩かされた道から自分で選択した未来に乗り換えて、そうやって自分で終わらせる事なく人生は続いて行くのよ って意味はあったりなかったりするのかな…。
列車は度々出てくるものの、ちょっと当時の事情や地理にも疎すぎて 線路がどうのこうの!というシーンが(線路を引いたり引かなかったりしたらどうなるんだ…?)とか思ってしまって悲しかった。

それにしても、過去の戦時の男と真田広之の差がデカすぎて、急に出てきた真田広之に誰…?通訳の人ってことで良いんだよな…?ってなっちゃうのは同じ人種だからかしら。わたしも将来的に真田広之になれるならなりてぇ…。

珍しく日本人役がちゃんと日本人っぽいのは良かったなぁ。
日本語の台詞に字幕がないのは、全然違うジャンルのゲームのくせに急にスニーキングミッションやらされるくらい嫌いだけど、渋々音量調節して聞いたらちゃんとネイティブ発音で良かった。キシャマ、ナニヲシテルカ、ユェ~ 的なやつじゃなかった。

平凡な自分にしたって、昔の思い出したくもない思い出が不意に蘇っては過去の自分を殴り付け、下らない事ばかり憶えている脳を絞り出してやりたくなる時もある。でもそんなものとは比べ物にならないくらいの物を背負っている人も居て、記憶の消去装置みたいなのって未だに作れないんだなぁ とか、あったとしてそれを選ぶ時のこととかを考えたり、記憶の重さについても考えてしまった。
記憶が人を作っている側面もあると思うんだけど、重たすぎたらどこにも行けないよね…。
ふじこ

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