義清

祈りの雨の義清のレビュー・感想・評価

祈りの雨(2013年製作の映画)
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すごかった。ルポルタージュだった。インドでのボパールで起きた公害のノンフィクション。どんな言葉も陳腐になる。まず観るべきだ。公害を起こしたユニオンカーバイドの会長を演じるのはマーティンシーン。『アポカリプスナウ』のスリムなイメージとは全然違って、いいおじさんになってた。主人公のディリープ夫婦が幸せそうになっていくのと対照的に、隣の未亡人の物憂げな表情を定期的に挿入しているのがなかなか良かった。未亡人の度々の挿入は、工場の事故の予兆が見え始め、やがて起こった事故が徐々に進行していくのと連動してる。川に逃げ込むも力尽き、目をかっと見開いたままうつ伏せに水面に浮かぶ彼女の姿は、ボパールの被害者全体の悲劇を象徴していた。
公害問題を扱ったノンフィクションなのに、胡散臭さが全く無く、鑑賞に堪える立派なものに仕上がってた。例えば昨日の『報道が社会を変える』の授業で観たダイジェスト版の『名張毒ぶどう酒事件』などは、仲代達也ほどの名優がでているにもかかわらず、なんか田舎くさい。シナリオの中に当時の写真を挿入して事件の詳細を説明するにしても、字幕のフォントやBGMに工夫を加えるだけで印象がかわる。事実の理不尽さを伝えるのが目的とはいえ、結果としてクソマジメで説教じみた語り口になってしまっては鑑賞の喜びが得られない。それで結果的に集客が見込めないのなら、多くの人に現実を知ってもらうという当初の目的に反してしまい、元も子もない。
ドキュメンタリーに関心が集まらないのは視聴者のせいじゃない。表現のセンスに問題があるのだ。
義清

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