ロアー

それでも夜は明けるのロアーのレビュー・感想・評価

それでも夜は明ける(2013年製作の映画)
4.2
2回目の鑑賞で、劇場鑑賞は今回が初。
初見時も今回もベネ観たさで観た。

あまりに辛くあまりに救いがなくて、例えキウェテル演じる主人公が最後に奴隷から解放されたとしても、少しも夜が明けたようには思えなくて「それでも夜は明ける」という邦題がそぐわないように思えたけど、この"夜"が主人公の12年間ではなく、彼の時代よりもっと先の現代を生きている者として、希望と決意を込めてつけた邦題だとしたら、これ以上ないほどピッタリなタイトルだと思えた。日々ぬるく生きていると、この世界がまだまだ夜の中にあることをつい忘れてしまう。

誰が悪いという以前に"人を所有しても良い"という法律が罷り通ってしまったことの悲劇。
この映画では直接的な言葉でも暗喩的な表現でも、奴隷を家畜そのものとして強調して描いている。例えば今「家畜にも人間と同等の権利があるという新法が可決されました」となったとして、果たしてどれだけの人が素直にそれを受け入れられるだろう?乱暴な例えだけど、当時の人々の意識って極端に言えばそういうことでしょ?

時代や法律が変わって良くなったことは確かにあって、現代に鞭を打たれている黒人奴隷はいない(はず)。ただ、大人になると未来が全て夜明けに向かって進んでいる訳ではなくて、度々暗い夜が訪れていることにも気づいてしまう。人は生きている限り間違い続けるだろうけど、過去の過ちから学ぶことはできる。映画がエンタメに留まらず"文化"として成り立っているのは本作のような作品があってこそだなと、色々考えさせられる映画だった。

単純に推し活として、ベネをスクリーンで観れたのも良き。もっと出番が少ない気がしていたけど、案外出番があって嬉しかった。登場のタイミングをすっかり忘れていたので、ベネが振り向いた瞬間は不意打ちでドキッとしちゃった。いい意味で普通の人と言うか、ベネが演じたフォードような人って、当時そこそこ多かったのでは?と思わせるような役だった。

役柄が滲み出た凶悪な人相とヒゲも相まって「これ本当にファスだっけ?」と思ってしまったマイケル・ファスベンダーのクズ男っぷりも良きだった。人を支配したがる人間は、自分への自信のなさや心の弱さを抱えているというのが良く分かる役。奴隷を奪われると知った時に吐いた言葉の数々に、あの役の醜さと哀れさが集約されていたと思う。

それと、タイトルロールで「ああこの映画って"プランB"だったのか」と気づいて(思い出して)、ブラピの役どころもなかなか勇気のいる役だと思った。私が捻くれているだけかも知れないけど、下手するとブラピの役って"綺麗事を並べてヒーロー面してる白人"として、奴隷を虐待していた悪役であるポール・ダノやファスよりも悪く受け取られそうだと思って。ブラピが何を思ってあの役を自身で演じたのか真意は知らないものの、この映画から感じた問題に真正面から向き合おうとする姿勢からして、私には制作サイドとしてのブラッド・ピットの矜持のようにも思えた。単純にブラピの名前がキャストにあれば、映画を観る人も格段に増えるだろうし。

そして、本作でアカデミー賞助演女優賞を受賞したルピタ・ニョンゴ。
鞭打ちのシーンとソロモンとの別れのシーンで、確かこんな感じの台詞を言っていた筈...という初見時の朧げな記憶があったのに、改めて観たらそんな台詞なかった。目や表情、すべて演技のみで彼女が語っていたものだった。テレパシーで台詞を受信したような感じがして、演技がうまいとかもはやそういう概念すら超えたすごさだった。
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