櫻イミト

静かについて来いの櫻イミトのレビュー・感想・評価

静かについて来い(1949年製作の映画)
3.5
「絞殺魔」(1968)「マンディンゴ」(1975)のリチャード・フライシャー監督の初期作で、刑事ドラマのカルト作。原案はアンソニー・マン。

雨の日に犯行を繰り返し”ジャッジ”と名乗る連続殺人犯は、警察に犯行声明を送ってくる。逮捕に執念を燃やすグラント刑事は聞き込み捜査を続けるが、目撃情報はあれど犯人の顔を見たものはいない。そこで、モンタージュ写真の代わりに犯人の背格好を再現したマネキン人形を作るのだが。。。

フィルム・ノワールの刑事ドラマといえば翌年の「夜歩く男」(1948)が実録タッチで有名だが、本作も一人の刑事のシリアルキラーの捜査を追いかける。

序盤は若い女性記者が首を突っ込んできて楽しそうな気配もある。しかし一向に糸口が見えず刑事は精神的に追い込まれていき、ついにマネキン作戦に至る。顔のないマネキンはビジュアル的にも異様なインパクトがあり、あるだけで映画的な役目を充分に果たしている。しかし本作をカルト化しているのは、刑事の妄執がマネキンに“生命”を吹き込むことにある。

この“生命”の解釈は現実派と幻想派の二通りに分かれているようだ。初見時は誰でも現実として観ることだろう。自分もそうだ。しかし現実だとすると布石が回収されず腑に落ちないのだ。現状が60分と短尺なので「何らかの事情で回収部分がカットされたのか?」とも考えてみたが、色々調べるとそうではないらしい。A・マンの原案には“生命”のシーンは無く、フライシャー監督が付け足したというのが真相の様である。ならば解釈は“幻想”一択とすべきだろう。刑事の残留思念を映像化して見せたということだ。

本来は論理的に描かれるべき捜査ドラマに幻想表現を持ち込んでいることが本作をカルト化している。他にも投げっぱなしの布石が数点あるが、シュールレアリズム表現と考えれば何でもありである。同じような感触の映画として「キャット・ピープル」(1942)が挙げられる。どちらも監督の狙いを超えた“謎表現”が魅力を放つ映画だと思う。そのシュールな味わいは「絞殺魔」をはじめ「ソイレント・グリーン」(1973)や「マンディンゴ」などのフライシャー作品に通底している。
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