実験映画は大抵刺激が先行してエキセントリックな味わいが強くなるのに、本作は表現自体は鮮烈ではあるがそれがオブラートに包まれ優美で丸みを帯びた印象になっているのは監督が女性だからなのかそれとも彼女の個性ゆえなのか。そのため物語やテーマを把握できなくてもこうした作品にありがちな不遜な才気や自我をこれでもかと出すエゴが無くすんなり映画の世界に自然に身を任せることが出来た。
そして随所に出てくる小道具や分裂していく主人公のイメージ、男性への畏怖がこの作品に独特の刺激となっている。
『アンダルシアの犬』や『詩人の血』といった先達の作品にオマージュを捧げつつ、自分なりの作風へと昇華している点も好印象。