マーチ

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅のマーチのレビュー・感想・評価

3.8
言わばひとネタで、ここまで人生の悲嘆と可笑しさをロードムービーに乗せて描けるのかと感服。

「金」という最も偉大で愚かな発明が暴く人間関係の本質。人生でどれだけ本当の意味で分かり合える人と出会えているのか考えさせられるし、親戚という曖昧な定義で括られた親族関係(が人間同士である以上)の限界も感じさせられる。それでいて、介護についても深く考えさせられる重層的な内容になっているのが素晴らしい。介護とは、支配したり、括り付けるのではなく、同じ方向を一緒に向いてあげることで答えなき答えを共に探す旅なのかもとさえ思える。勿論、現実の介護はそんなに甘いものじゃないけど、この映画はそれに苦しめられたり、疲れ切ってしまっている人たちの肩の力をそっと抜く役割を果たしている。

兄弟があるものを盗む時の結託具合は兄弟を持つ者なら誰もが共感できるだろうし、結局のところ“家族最高”で帰結するのも良い。

カラーでなくモノクロであることが醸し出すパーソナル性、最後に訪れる息子の優しさと、父親の静かで粋なちょっとした復讐。主要キャストが全員いい演技してるんだけど、中でも個人的にはジューン・スキッブの演技がリアリティ抜群に感じられた。親戚に一喝するくだりは最高。

この作品、レンタル店でドラマコーナーではなくコメディコーナーにあって「なんで?」と思ったけど、思いのほか笑いに笑える作品で納得。人生の可笑しさも、人間の悲しさも、人と人との繋がりの愛しさも全部詰まっている。

ブルース・ダーンがもらった帽子を何の躊躇も、恥ずかしげもなく、スッと被る可愛げにもやられた…
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