あなぐらむ

さすらいの恋人 眩暈のあなぐらむのレビュー・感想・評価

さすらいの恋人 眩暈(1978年製作の映画)
4.2
だいぶ前のシネマヴェーラ渋谷小沼勝特集で。DVDも何度も再見。

中島みゆき「わかれうた」をテーマ曲に、宿命的な出会いをした明日無き男女が、まさにその日暮らしの様に都会の底辺を彷徨う様を、誇張無く、只々見つめる静かなる一篇。大して華のない(失礼)ヒロイン・小川恵がみるみる魅力的なおんなに見えてくる見事な小沼マジック。
小川恵も素晴らしいが、この時代のロマンポルノと言えばな相手役、北見敏之が抜群。夢破れ、虚無の中に生きる男の投げやりな生と性を体現する。
魂の孤独を繋ぐのは性だ。生きるのが下手な二人のぎこちない、切ない日々とささやかな幸福。高橋明が脇で光る。

ロマンポルノやピンク映画が難しくてかつ面白いのは、一般映画で「くっついたよ、めでたしめでたし」の「後」の本当の男女の生活を描くからだ。幸せの後の日常、そこでは「ばか!あんたなんか嫌いよ!」が「愛してる!」と同義で使われる。
男女二人、特にヒロインはもう「だめんず」バリバリなんだけど、あまりにもその存在が(冒頭の冬の薄氷のように)透明で壊れやすいのが分かるから、もう観てて切ないったらない。「貴方がいなきゃダメ」じゃなくて「貴方には私がいなくちゃダメなのよ!」だもん。泣くよ。脚本は大工原先生。

この映画、お金稼ぐ為に人前でナニをする「白黒ショー」を男女がやる事になるんだが、最初は男は割り切ってやってるのが、愛情が深まるにつれ勃たなくなるのよ。「お前(の痴態)を人に見せたくない」って。そこで女はどうするかっていうと、自ら自分のあそこを見せ始める。彼の為に。その瞬間にこそ輝くという。間違いなく、この瞬間にフォーカスしてこの映画は撮られていて、小川恵が一番綺麗に撮れている。そして二人は逃げる。しかし運命は二人を分かつ。どうってことない男女のドラマがぐぐっと胸に迫る。そこに中島みゆきの「わかれうた」ですよ。もうね。

小沼作品の多くでラスト、女性は一人で立つ(発つ)。男の手を離れていく。それは自立とかそういう話ではなくて、男からは知りえない何者かになって去っていく。現れて、去っていく。そういう運動の映画である。
「さすらいの恋人 眩暈」では断絶という形で男と並びえず、去っていくヒロインの彷徨いで終わって行く。