MasaichiYaguchi

ふしぎな岬の物語のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ふしぎな岬の物語(2014年製作の映画)
3.3
コーヒーは同じ豆でも淹れる人が違うと味が変わる。
コーヒー党の私にとっての一杯は仕事の集中力を高めたい時、そして逆に仕事が一段落して寛ぐ為にある。
映画に登場する「岬カフェ」は、千葉県明鐘岬にある実在の喫茶店がモデルになっているようだが、吉永小百合さん演じる店主の柏木悦子が「おいしくなあれ、おいしくなあれ」と愛情込めて淹れた一杯のコーヒーは、如何にも体の芯から温めてくれそうだ。
このカフェには村の常連客ばかりでなく訳有りの様々な人々が訪れ、悦子の一杯のコーヒーを通して癒され帰っていく。
これらの癒しのエピソードと並行して、マドンナのような悦子を慕う男たちの不器用で純なドラマも展開する。
この思いを寄せる二人の男、悦子の甥で岬の問題児、柏木浩司を阿部寛さんがユーモラスに、悦子と浩司を陰ながら支える不動産屋のタニさんを笑福亭鶴瓶さんが飄々と演じていて作品に温もりを与えている。
そして竹内結子さん演じる出戻りの竜崎みどりと父とのドラマが、この作品の一つの柱になっていると思う。
終盤で一大事があるものの、岬村という狭く限定された舞台で起こる様々な出来事の一つ一つ、それによって生じる色々な人の感情を積み重ねで作られた物語は、一滴一滴ドリップされたコーヒーのように味わい深く、心の襞に染み渡る。
人は一人では生きていけない。
映画の中で印象的な台詞「大丈夫、大丈夫」というのが出てくるが、この作品は人は励まし合って生きていけば未来は開かれるというメッセージを送っていると思う。