emily

エレクトリック・チルドレンのemilyのレビュー・感想・評価

3.7
 厳格なモルモン教の家庭に育ったレイチェル。15歳の誕生日に禁止されていたロックを兄が隠し持ったカセットテープを盗み聞きする。それから3か月後彼女は処女なのに妊娠してしまう。両親はそれをなんとか誤魔化すため結婚を企てるが、レイチェルがテープの中の声の主が子供の父親だと信じ、その人物を探すためラスベガスへ向かう。

 三つ編みの少女の後ろ姿、波の音が消えてのタイトルコール、信仰についての面談をカセットテープに録音し、母親のマスタングという”馬”の話を妄想する。古い時代設定に見せかけておいて、ラスベガスのシーンに切り替わるとそれは現代だということがわかる。彼女の暮らすコミュニティは時代が止まっており、閉鎖的であらゆる物を禁じられて暮らしを普通として受け入れれていた。壮大な自然に囲まれた暮らしでありながらそこには陰湿な空気と、抑えつけの教育が子供たちを守り、危険なものはすべて排除し”健全”として暮らしを築いていた。

 そこへ飛び込むのがブルーのカセットテープである。あんなに縛り付けた生活は糸も簡単に一つのカセットテープにより崩れ去る。それは母が託した希望であり、心の奥底に芽生えてた自由への扉である。ラスベガスで出会う人たちは自由だった。夜のネオンが降り注ぎ、表現の自由を歌に言葉にのせる。彼女が知らなかった世界、閉ざされてきた世界がそこにある。閉鎖的なコミュニティから一気に空気まで開ける。水たまりを使って反射する街の風景が幻想的に美しく、彼女にとっては現実離れしているこの世界と心が共存していく。

 母の残した青いテープがレイチェルの閉ざされた世界から解放する。心が呼び寄せるように、今までを取り戻すように、録音してきた心の声が今の声と重なっていく。それは同時に周りの人たちの心の声も拾っていくことになる。自分の声を客観的に聞くことで見えてくる自分の求めてること。体が心が求めてることに素直になること。たとえそれが強いられたものとは違ったとしても、自分に正直になれば迷いはない。正しい道は自分が望む道。たとえ後悔しても悔いは残らない。
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