あなぐらむ

ピンクのカーテンのあなぐらむのレビュー・感想・評価

ピンクのカーテン(1982年製作の映画)
3.7
「お、勃ってる勃ってる」でお馴染み、美保純の出世作であり、日活ロマンポルノ屈指の有名作(名作ではない)。
ジョージ秋山原作を、加藤彰、小原宏裕組の助監督を務めた上垣保朗が監督。脚本は高田純を起用する事を最初から決めていたという。

妹が帰ってくる話である。寅さんがひっくり返るこのパターンは成人映画によくある配置換えだが、兄貴が帰ってきた所で日常は変らんがいざ(オトナの身体を持った)妹が帰ってくると、やにわに物語が立ち上がる。
80年代も前半の都市部で暮らす(上京組の、勝ち組ではない)若者の象徴として、池袋サンシャイン高層ビルをふり仰ぐ西武線そばのアパートが主たる舞台となる。ビルはそびえ建ってるが男性性はフニャチンな方向に向かう、そんな時代の話である。

うだつの上がらない兄・阿部雅彦はスーパーで品出しをしている。結婚相手と別れて帰ってきた妹・美保純はトンでる女で美容師で、そこの店長と愛人関係にある。ひとつ屋根の下暮らす兄に、性に奔放な妹の肢体や仕種は生々しすぎて…という相姦テーマの王道を往く訳だが、上垣と高田はこの枷は絶対に外すまいと(なぜなら物語が終わってしまうので)、妹には不倫セックス(ソーププレイ有り)を用意し、兄の方にはいささか残酷な童貞喪失エピソードを用意する(原作からそのようだ)。萩尾なおみが演じるこの薄幸な「代理としての性交相手」は、兄と妹が交わる事の暗黒面を体現したような女性である。安いアパートで、まるで戦後すぐの赤線のような体で存在するこの女は、奔放な戦後日本娘・美保純と対極にある日本女性の負の歴史である。このパートがボディブロウのように効いてくるので、本作は非常にヌケが悪い。閉塞感がある。
兄妹とも、言ってみれば相手に裏切られたり傷ついて、その中で寄り添ってこの都会で生きて行く、そういう苦い青春映画として本作はある。これもれっきとした日活映画なのである。

美保純は上垣監督も彼女をキャストするため渋る日活上層部を説き伏せ(美保純自体は脇役で何本か出ているが、主演はならんという事だったそう)、彼女自身もこの野理子という役は自分にぴったりだと思ったそうで、映像にもそれがしっかり刻まれている。彼女はクレバーな女性なので、このキャラクターの天真爛漫でかつ男の誘惑して止まないというビジョンを明確に頭に持っていたのだろうと思う。気の弱い兄を演じた阿部雅彦は「天使のはらわた 赤い淫画」と通底する時代の男性像を好演、この二人のごつごつしていない感じは、80年代という浮遊の時代に非常に沿ったものだ。

名だたる監督の助監督を務めてきた上垣監督は、女性を美しく撮る事、絡みをねちっこく撮る事にも長け(撮影は野田悌男)、バランスのとれた仕上りの「日活ロマンポルノらしい」映画として本作を送り出した。
言ってしまえば藤田敏八と内田栄一がけん引した妹シリーズの異母兄弟のような本作は、結果として支持を受けてパート3まで作られて、新版として安原麗子のビデオシネマも作られる兄妹相姦もののトップシリーズとなる。
それにしても、OPにかかる原マスミの主題歌「ズットじっと」がどうにも気持ち悪くて、あれだけは何とかして欲しい。この歪んでる感じが、また魅力なんだろうけども。